Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

『素晴らしき哉、人生!』字幕完全版公開


1月末のThink Cのパーティで大々的に(?)発表したフランク・キャプラ監督の名画『素晴らしき哉、人生』の日本語字幕バージョンのフリー公開計画ですが、様々なアクシデント(字幕ソフトのバグやGoogle Videoの不調)に見舞われながらも、ようやく一通りの作業を終え、本日5月1日から完全版を公開することに相成りました。

この作品は、パーティの会場でも語った通り、そして富田さんがBCNの記事で書いてくださった通り、公開当時はあまり評価されず、キャプラ自身もこの映画を最後に映画界から離れてしまうことになる作品なのですが、パブリックドメインになったことによってアメリカのテレビで幾度となく放映され、再評価されることになった作品です(そして今、アメリカではパブリックドメインになったにもかかわらず、様々な事情で再び表舞台から姿を消してしまった哀れな映画になっているのですが)。

そんな映画だからこそ、こうして日本でもフリーで公開するに値するのであり、いちばん最初にやるならこの作品ほど適したものはない――ということを、確かパーティの席上で話した気がします。もちろん、この映画は個人的に大好きで、頑張って冷めた目で見ようとしてもどうしても泣いちゃうくらい好きな作品です。最後に"Auld Lang Syne"という「旧交を温める歌」が流れてくるところで、歌の意味を考えると、もうこらえきれなくなるんです。ティオムキンの案を蹴ってこの歌を採用したキャプラは偉いです。

フランク・キャプラは第二次大戦前から(というよりは主に大戦前に)活躍した映画監督ですが、戦中は戦争協力映画を作ってしまって、戦後、自分自身落ち込んでしまいます。正直なところ、戦前の作品は安易な正義や、空想的な幸せ、あるいは楽観的なヒューマニズムを描くことが多かったように思えます。そんな彼が戦争で現実を見てくじけてしまった後、あらためて映画を作ろうとして、そしてようやく彼の出せた答えがこれでした。原作と比較してみると、彼の真意がよりいっそうよくわかります。自分の正義が折れてしまったあと、それに替わるものとして彼が見つけたのはいったい何だったのか、そんなことを考えながら鑑賞してみてもいいかもしれません。

彼の出した答えは、戦勝に浮かれるアメリカではすぐには受け入れられませんでした。そしてキャプラという映画監督はフェードアウトするのですが、時が経ち、パブリックドメインになって繰り返し放送されることによって、ようやく彼の答えは人々に迎えられます。公開当時は無冠、興行も惨敗で、彼が設立したリバティ・フィルムズを解体に追いやるのですが、今やアメリカ映画協会の選ぶベスト100映画の常連です。「元気の出る映画ベスト100」の第1位、「歴代アメリカ映画ベスト100」の20位などなど。不朽の作品になるためには、人々の手の中に、人々の心の中にあってこそなのでしょう。

最初の写真は、この動画とその原作、そして昔に出ていたカラー版のビデオです。今ではこのカラー版もDVDになっていないので、貴重かもしれませんね。パラマウントから日本版をちゃんと出してくれたら、喜んで買うんですが。悲しいかな、今この作品は、日本ではいわゆる正規版というものがないんですよね。そんな意味でも、未だなお不遇の映画です。

(ちなみに、権利関係は徹底的に調べてクリアしたつもりですが、もし何かありましたらメールにてご連絡ください。)