Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

国際カンファレンス「日本における翻訳学の行方」雑感

先日の9日と10日に立命館大学にて国際カンファレンス「日本における翻訳学の行方」が開催されました。開催者・発表者、そして会場でお世話になった方々にあらためて御礼申し上げます。たいへん勉強になりました。個人的にも様々な示唆や励ましをいただき、参加できた僥倖(もう少しで気づかず見逃してしまうところでしたので)に感謝する次第です。せっかくですので会議の題目にも絡めまして、参加後の雑感として「日本における翻訳研究」について思うところを記しておこうかと思います。

  • Judy Wakabayashi教授が「国内の研究者が集まって交流をはかることは結構だが、内輪的になりすぎるのもよくない」という旨の発言をなさっていましたが、その通りで、これからも良い意味でお互いをライバルとして切磋琢磨し、時に力を合わせ、ともに批判し合いながら研究の向上に務めていければと思います。私も時折厳しい見方をするかもしれませんが、けして他意はございませんので。
  • 研究書の邦訳が少なく、それゆえ国内の認知が低く他分野からの参加もわずかだ、という点につきましても、改善していかなければいけないとあらためて感じました。現在私の専門であるイギリス翻訳理論史からいちばん近い有名人は、やはりProf. Lawrence Venutiでしょう。The Translator's Invisibility: A History of Translationは、オーソドックスな英文学から見れば、理論に引きずられすぎな点や多少?な箇所もありますが、やはりその重要度から言っても翻訳が急務でしょう。どなたかがなされるのであれば英文学方面から私もぜひ協力致しますし、もし私がやらせてもらえるのであれば全力を尽くしたいと思います。
  • Venutiと言えば氏の編集したThe Translation Studies Readerもありますが、自分の便宜のために部分的に訳したまま放置してあります。SteinerやHolmesの論文とか。あれもどうにかできないかなあ……。あのなかで出ているのは、Walter Benjaminといった以前より邦訳があるものの他は、阿部マーク・ノーネス氏のものだけでしたっけ。
  • もちろんお互いの研究成果の共有についても進めなければなりませんね。私の修士論文の対象であるAlexander Fraser Tytlerにつきましては、近いうちに抄訳+解説という形での研究ブックレットをavailableにしたいと思いますので(鋭意準備中)、少々お待ち下さい。

このブログをご覧になっておられる方が想像以上にいらっしゃって驚きましたが、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。ちなみに会議の最後のあたりでちょこっと触れさせていただいた野村喜和夫さんの文章の書誌については、前エントリに出した「別宮貞徳と消費者運動」のなかにも入ってますので、ご参照ください。一読してわけのわからない散文詩に近いものではありますが、非常に示唆的な、翻訳への直感だと個人的には思います。