Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

Yen Pressのマンガ(その2)

またまたレビューがたまったので久しぶりに更新致します。

以前の予告では日常系というくくりをしていたのですが、まとめるにあたり、あらためて〈BFFもの〉と名付けてお送りしたいと思います。BFFというのはティーンのあいだでの俗語で、Best Friend(s) Foreverの略なのですが、日本語にするならば「ズッ友」でしょうか。基本的には、複数の主人公たちがお互いに悪戯したりいがみ合ったり報復を互いに繰り返したりしたあとで親友になりました、というものなのですが、そのエスカレートしていく様は、さながら少年マンガでいう必殺技の応酬や実力のインフレのようで、理解した上で読むとなかなか楽しいものでもあります。

というわけで、今回はYen PressのオリジナルマンガでもそのBFFもののご紹介を。

Gossip Girl

Gossip Girl: The Manga, Vol. 1

Gossip Girl: The Manga, Vol. 1

  • アーティスト: HyeKyung Baek
  • 作者: Cecily von Ziegesar
  • 出版社/メーカー: Orbit
  • 発売日: 2010/08/17
  • メディア: ペーパーバック
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  • 全3巻

【あらすじ】クイーンBとあだ名されるブレアは、プライド高い美人にしてハイスクールの人気者セレブ。ところが幼馴染みのセリーナ(S)がNYに戻ってきたことで事態は一変、天真爛漫なSが何をやっても上手くいくのに対して、Bはいくら努力しても――陥れようとしてもSにぼろ負け。挙げ句、ある大失敗からほぼ無一文で家出することになってしまい、それから次々と散々な目に……そんなとき嫌々ながらも手を差し伸べてくれたのが、Bの天敵ヴァネッサ(V)で?!
原作はセシリー・フォン・ジーゲザーによる人気YAシリーズにして、ドラマが全米で大ヒット、日本でもCSや地方局で放映され、邦訳も全11巻(第1巻は『ゴシップガール 1 (ヴィレッジブックス)』)が刊行済のこの作品。ただそのマンガ版は、原作ともドラマとも違う大幅なアレンジが施され、れっきとした〈少女マンガ〉に変貌を遂げました。

ドラマなどに見られるセレブの華やかさや過激さはなりを潜め、ヒロインたちが同じ男性を奪い合ったり、相手に恥を掻かせようと罠を仕掛けたり、そのなかで(男キャラそっちのけで)彼女たちが仲良くなっていくさまを描きつつも、高慢ちきで性格の悪い主人公Bの成長物語に仕上がっている良作。元々セレブの彼女が無一文になり、シリーズ中盤メイドに扮してドタバタ喜劇を繰り広げるところや、ボーイッシュな庶民に改変され脇役的扱いからメインに昇格したVと共同生活を行うところなどは、コメディとして小気味よくも物語上の試練として見事に描かれています。

最後、拳を交えた敵同士が仲間になるような、そんな清々しいB+S+V3人の組み合わせは、まさにBFFというにふさわしい大団円。各登場キャラのビジュアルもうまく少女マンガ的に書き分けられ、筆致や演出の緩急も最終的には及第点。Yen Pressのオリジナルのなかでも特にオススメしたいマンガです。

Gossip Girl: The Manga, Vol. 2

Gossip Girl: The Manga, Vol. 2

Gossip Girl: The Manga, Vol. 3

Gossip Girl: The Manga, Vol. 3

The Clique

The Clique: The Manga

The Clique: The Manga

  • 全1巻

【あらすじ】セレブ中学生のマッシーは、NY郊外のお嬢様学校におけるみんなの憧れ、おしゃれ4人組のリーダー。ところがあるとき彼女の住む豪邸の敷地内へ、父親の親友一家が間借りすることに。同い年の娘もいるっていうからどんなやつかと思えば、クレアっていうセンスのださいボクっ娘! こんなやつと一緒に住んでお世話しなきゃいけないなんて、もうサイテー。マッシーがいじわるすれば、負けん気の強いクレアもやりかえし、さらに友人の3人まで巻き込んで……
原作はこれもアメリカで人気のYA小説。Gossip Girlと同じでティーン版セックス・アンド・ザ・シティという触れ込みで、セレブな学生たちを描いたのですが、邦訳は15巻中『ガールフレンズ〈1〉友達になんてなれない!篇』から2巻までで打ち切り、同名の映画も鳴かず飛ばす、あんまり流行りませんでした。

デザインとしては絵柄をマンガ風に寄せたグラフィックノベルで、キャラデザインもマンガオリジナルにしたゴシップガールとは違い、映画版を参考にしたもの。見た目はゴシップガールのような派手さよりもかわいさが強調されているので、女同士の争いもそうなのかと思いきややっぱり(?)陰湿。正直のところ、男性である私はどん引きしてしまうようなエピソードまで。メインはマッシーとクレアのふたりで、ほか3人はどちらかというと駆け引きの要素、この3人をどっちがどうやって味方につけるか・うまく操るかでお話の起伏が生まれてきます。

会話の内容もやさしめで、男の影も性的な表現もほとんどないので、どちらかというとちょっとターゲットが幼い層なのかもしれません。

Y Square

Y Square

Y Square

  • 全2巻

【あらすじ】済州島のハイスクールに通うイケメンだけが取り柄の日本人チェリーボーイ、ヨシタカ・コギレイ。モテたくて仕方がない彼は、あるときゲイの同級生ヤガテ・ソトガワに〈モテ〉を教えてやると言われ、ファッションコンテストについていくことに。そこでひょんなことから出場者のひとり、気の強い美少女チョ・ジュジンの邪魔をしてしまう。ジュジンはどうしようもないバカで気の利かないヨシタカにいつも怒ってばかりだが、次第に悪いやつではないと気づき始めて……

この本は変わって経緯で刊行されていて、韓国人の描き手ジュディス・パクがドイツで出版したマンガが英訳されたもの。絵は彼女の前作『Dystopia』からかなり上達し、とりわけ女性キャラの絵がコリアンガールの美しさを捉えていて魅力的なんですが、ときどき同一人物の手とは思えない作画崩壊や背景の手抜きがあるのはご愛敬。内容は(いい意味で)女子中学生の妄想といったようなもので、筋やジェンダー論的な粗を探し始めたらきりがありませんが、素直な感情や想像力の発露として好感が持てます。このお話でいうBFFはヨシタカとヤガテのふたりですが、どうして日本人なのか、なぜこんな妙な(?)名字なのか、ちょっぴり不思議。

Y Square Plus

Y Square Plus

(おまけ)Soulless

Soulless: The Manga, Vol. 1 (The Parasol Protectorate (Manga))

Soulless: The Manga, Vol. 1 (The Parasol Protectorate (Manga))

  • 既刊〜2巻

【あらすじ】舞台はヴィクトリア朝ロンドン――行き遅れの貴婦人アレクシア・タラボッチは一家の疎まれ者。ただ彼女が結婚しない(できない)理由はその鼻っ柱が強いだけでなく――実は、人狼や吸血鬼といった〈超常類〉の力を無にする数少ない〈過常類〉であるがゆえ。女王陛下の治める大英帝国では超常類も領分を守り管理されて人類と共存していたが、ある晩餐会でアレクシアは未登録の謎の吸血鬼に襲われてしまう。アレクシアはBUR(異常類登記局)に勤める腐れ縁の人狼マッコン卿と、不器用で煮え切らない恋愛を交えつつ、事件の真相に迫っていく……

原作は「英国パラソル奇譚」のシリーズ名でも知られる、ゲイル・キャリガー作の人気スチームパンク小説。マンガ版では、細かい設定などは説明せず(そこがややつらいものの)、ヴィクトリア朝の雰囲気とラヴコメを主軸にして物語が展開していきます(事件がラヴコメの引き立て役なのは図書館戦争と似たような感じ)。

物語は各巻完結で作画もたいへん綺麗で凝っているため、原作ファンやこういった雰囲気のものが好きな人は持っててもいいかもしれませんが、いかんせん会話で用いられる英語が過度に英国風で難しめ(TOEICや英検・現代口語とはまったく異なるもの)なので、楽しみのために読むとやや難儀すると思います。出来はいいのにちょっとおすすめしづらい――ので、日本語版を待ちたいところです。

Soulless: The Manga, Vol. 2 (The Parasol Protectorate (Manga))

Soulless: The Manga, Vol. 2 (The Parasol Protectorate (Manga))

以下は原作の邦訳。
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)

アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)

さて、ひとまず今回のレビューはここで終了。次回以降は、別のManga出版社のオリジナル作品と、ホラー系コミックなどを予定しています。