Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

クトゥルー神話もの海外コミック

もはやこのblogは何ヶ月かに1回海外マンガのレビューが載る感じになっておりますが、今回はあれこれ読んでいたクトゥルー系海外コミックのメモがたまったので、そのあたりを簡単にご紹介したいと思います。(私自身が得意でないため長編アメコミはちょっと手が出せず、単発ものばかりです。)

まずは、御大H・P・ラヴクラフトが主人公に据えられた作品から。

Young Lovecraft

Young Lovecraft 1

Young Lovecraft 1

【内容紹介】ちょっと変わった嗜好をお持ちの内気なみなし児ハーウィと、元気いっぱいのパンクっ娘スージー、あとグール犬とかポオとかランボオとかボードレエルの亡霊とかが繰り広げる、ちょっぴりワンダーでちょっぴりグロいクトゥルー神話風味の3〜4コママンガ集!
すでに私のtwitterでご紹介済ですが、ハーウィことH・P・ラヴクラフト少年を主人公としたコミック・ストリップです。英訳版が2巻まであり、元はスペイン語で書かれてて現在既刊3巻。スージーちゃんはそのコミックのヒロインで(元ネタはスージー・スー)、主人公がかすむくらいにキュートなのですよ。英語版ブログでもちょろっとだけ最初のへんが読めますが、 スージーちゃん出てこないので、スペイン語に自信ある人は元ブログへ! スージーちゃんまじパンクかわいい(※この感想にはパンクっ娘に対する500%の補正が含まれています)。

しかしせっかくなので Young Lovecraft を布教せんとリンク+簡単な訳(チョイスは恣意的)をtwitterのときに作っていましたから、ここで再録を。リンク先の原語ブログで絵が参照できます。

(「もじぴったん」みたいなワードゲーム中のふたり)S「"OSIRIS"、17点」 H「"ZXLYGSTNH"、82点とトリプルスコア」 S「何だよ"ZXLYGSTNH"って!」 H「こいつは古えの神様で……」

El Joven Lovecraft: Tira 74

H「スージーに今日は風邪で学校休むって言って来て」 S「えっ!? ハーウィが末期の癌で瀕死?」 S「ハーウィ、水くさいじゃん! あたしが看取ってやるからさ!」 H「何て伝えたんだよ!」 G「オレさま、まだお前らの言語が不慣れでな」(続く)

El Joven Lovecraft: Tira 113 (y gran orgullo)

H「癌じゃないよ、このグール犬何でも大げさに言いやがって」 S「え……」 H「面倒かけてごめんな」 S「うん……」 S「じゃあ注文してたかわいい喪服キャンセルしなきゃな……」

El Joven Lovecraft: Tira 114

スージーちゃん超かわいい。ちなみに1巻にはハーウィとスージーちゃんがビヤーキーに乗ってポオの墓参りをするっていう何だかそれっぽい長編エピソードも入ってますよ! 1冊いかがですかそこのあなた!

Young Lovecraft 2

Young Lovecraft 2

El joven Lovecraft 3

El joven Lovecraft 3

The Strange Adventures of H. P. Lovecraft

The Strange Adventures of H.P. Lovecraft 1

The Strange Adventures of H.P. Lovecraft 1

【あらすじ】プロヴィデンスに住む三流作家のH・P・ラヴクラフト――雑誌に送った渾身の原稿は没にされ、うだつの上がらないせいで図書館司書の恋人にも振られ、散々な毎日だが、ある日妙な夢を見る。異形によって人間が惨殺される悪夢だ。しかしその事件は現実に起こったもので、遺留品からラヴクラフトは犯人に疑われるのだが、むろん違うことは本人には分かっている。他に真犯人がいる、そう思って動き出す主人公、悪夢の教える犯行、そして聞こえる「彼が鍵だ」の声――「私が眠れば、この町は死ぬ。」
内容・雰囲気を簡単に言い換えると、「『事件記者コルチャック』の主人公がラヴクラフトだったら」という感じ。異形による事件が起こって主人公が巻き込まれ、周囲にまったく信用されないながらも、最後になんとかぎりぎりそいつを撃退する、という。ノワールな雰囲気のなかをハードボイルド(で売れない作家で冴えない男)なラヴクラフトがモノローグ満載で動いていくのですが、クリーチャーの出てくる2時間もののTVムービーを観ているようで、物語の起伏やエンタメ性もじゅうぶん、読んでいると結構楽しめます。

ただラヴクラフトってことで例の容貌容姿をイメージしちゃいますが、全然違ってやっぱりハードボイルド系の顔立ちで、腕っ節もそこそこ。史実的正しさとかはあんまり気にしない方がいいです。amazonでは「1」とクレジットされてますが、残念ながら続編は出ておりません。公式サイトはこちら

Howard Lovecraft and the Frozen Kingdom

Howard Lovecraft and the Frozen Kingdom

Howard Lovecraft and the Frozen Kingdom

【あらすじ】クリスマスイヴ、4歳の少年ハワードは、施設で対面した父親から「やつらがやってくる、あの本を処分しろ」と言われる。ところがその日の夜、母親のくれたプレゼントはまさに父自筆のその本で――ベッドで読むやたちまちハワードは一面氷の異世界へ! ひょんなことからハワードは図体のでかい異形をペットにし、さらに氷の国の指導者たる少年から魔物の巣くう洞窟からある本を取ってくるよう依頼されるが……
キッズ向けクトゥルーコミック! 氷の国への冒険といえば、アンデルセンの「雪の女王」やドラクエVでおなじみのモチーフですが、それをクトゥルー神話でやったらどうなるか、というもの。お話としてはキッズ向けの1時間アニメみたいな雰囲気で、グロもホラーも大してありませんが、それでも筋や展開・サプライズなどはちゃんとダークでそれっぽい。表紙に最近のCGアニメ風で描かれているのが主人公のハワードとペットにした異形の〈スポット〉、ただし中身の絵柄とはちょっと違うのであしからず。続編に『Howard Lovecraft and the Undersea Kingdom』があります(未読)。

Necronauts

Thargâ?™s Terror Tales Presents Necronauts and Love Like Blood (Tharg's Terror Tales Presents)

Thargâ?™s Terror Tales Presents Necronauts and Love Like Blood (Tharg's Terror Tales Presents)

【あらすじ】高名なるマジシャンにしてサイキックハンターであるハリー・フーディーニは、ある日自分が闇に飲み込まれる奇妙な悪夢を観る。同じ頃、友人の作家コナン・ドイルの出た降霊会で霊媒がフーディーニの危機を告げて死ぬ。心配になったドイルはアメリカにある友人の自宅へ赴くが、そこには彼を救うというふたりの人物、超常現象研究家のチャールズ・フォートと怪奇作家のH・P・ラヴクラフトがいた。しかしほどなく家は謎の一味に包囲され、事態を打開するためにフーディーニとラヴクラフトは〈ネクロノーツ〉として夢の闇の奥へと旅立つことに……
作品集のなかに収録された50ページほどの話ですが、ラヴクラフトが重要な登場人物として出てきます。白黒のかなり癖のある作画。せっかくこの4人が揃ったのだから、もうちょっと長い話が読みたかったな、とも思いました。

と、ここまでがラヴクラフトが登場人物のアメコミ。ここから先彼は出てきませんが、最近の単発コミックでクトゥルー神話を扱ったものをご紹介しようと思います。

The Five Fists of Science

the Five Fists of Science

the Five Fists of Science

【あらすじ】時は1899年、すでに過去の人となった作家マーク・トウェインは、欧州の世情に憤懣やるかたない。そんなとき友人の変人科学者ニコラ・テスラが秘密裏に作っていた巨大ロボットを目の当たりにして心打たれる――「これなら世界の平和が守れる!(抑止力的な意味で)」。テスラの助手の少年、そして世界平和に関心を持つ運動家フォン・ズットナー女史を仲間に加え、早速動き始めるのだが……その裏では、発明家エジソン・実業家カーネギー・技術者マルコーニを従える銀行家J・B・モーガン一味による〈インスマス・タワー〉の建築が始まり、とんでもない異形が復活させられようとしているのであった……世界の行く末はいかに! 悪を打ち砕け、ニコラトロニック・ダイナモ
こちらも少しtwitterで紹介しましたが、ニコラ・テスラの作ったスチームパンクな巨大ロボに、のちノーベル平和賞を取る女史が乗り込んで、J・P・モーガン目論むクトゥルー的な異形の復活をぶっつぶす話。あらすじに書いた人物名を見ればわかるように歴史上の変人しか出てきません。話としては、ときどきグロが入りますが深刻にはなりすぎず、作者がロボット物が大好きからか要所々々を押さえてて、映画の文法で作られてることもあって、結構コミカルで意外と悪くない。カナダあたりで映像化されてアルバトロスあたりが日本語版DVDを出してくれたら絶対買います。この内容ならシリーズ化もできるっ!(ちなみにamazonの表紙は古い版ので今のとはちょっと異なりますので注意。)

ちなみに原作者さんのサイトにプレビューがありました。巨大ロボットもちら見え。

Neonomicon

Alan Moore's Neonomicon (Avatar)

Alan Moore's Neonomicon (Avatar)

【あらすじ】人が身体を花のように開かれて殺される事件が多発し、捜査していたはずのひとりの男がその模倣犯として逮捕される……FBI捜査官であるブレアとゴードンは、彼の足取りを追ってレッド・フックにあるクラブへ赴くが、そこは1920年代に大捕物のあったFBIにとって因縁の場所。事件の様々な側面からH・P・ラヴクラフトの書いたクトゥルー神話と何らかの関連があるとにらんだふたりだったが、やがてとんでもない事態に巻き込まれ……
ウォッチメン」などでおなじみのアラン・ムーア原作によるコミック。「『Xファイル』のクトゥルー神話版」というか、『Xファイル』の完全オマージュ。登場人物から〈過去の事件〉といった小道具の使い方にシナリオの進み方、それだけでなくどんでん返しや物語の結末まで、ひとつひとつがわかる人にはわかるくらいXファイル。主人公ふたりの声が小杉十郎太相沢恵子セルビデオ版)で聞こえてきて違和感がないくらい。そこそこ面白いんだけどそのせいでオリジナリティがなくなってしまってるのが残念。内容・絵柄は少なくともR16(もしかしたらR18でもいいかも)なので購入される際はご注意を。2011年のブラム・ストーカー賞を受賞してます。

North 40

North 40

North 40

【あらすじ】冗談半分で魔道書を図書館から借りだしたギーク男とゴス女だったが、遊んでいるうちに効果が発動――そのせいでアメリカのある片田舎では、あちこちで異能の力に目覚める人間が続発する。理性を失うもの、欲望を爆発させるもの、何かに操られ邪神を復活させようとするもの、それでも町の秩序を守ろうとするもの、様々に入り乱れながら、混乱した町は徐々に終局へと向かう……
表紙からクトゥルー神話風のロードムービーが始まるのかな、と期待していたのに、ふたを開けたら片田舎の小さな町でのパニック群像劇。しかも原作者の力量不足からか説明のバランスが悪く、作画の描き分けも微妙。ウォーキングデッドを引き合いに出して褒める裏表紙の煽りはむしろウォーキングデッドの方に失礼。きつい口語米語とグロ描写くらいしか見るべきところがないかも。

Arkham Woods

Arkham Woods 1

Arkham Woods 1

【あらすじ】ニューイングランドにある小さな町アーカムウッズへ、母親とともにやってきた高校生のクリスティ。目の難病をわずらった母の手術費を捻出するため、叔父から相続したこの地の家を売却するために一時転居してきたのだが、彼氏とともに家のなかをふざけて探るうちに、屋根裏で人間とは思えぬ骨を発見することに。さらに友人らを加えて地下室を探ると、妙な模様の描かれた床があり、そこから妙な箱が現れる。興味本位で開けるも中は空、……のはずだったのだが……
これはちょっと変わり種でアメコミではありません。日本のマンガフォーマットで作られた、右開き200ページ超の単行本! 作画は外務省主宰の国際マンガ賞第1回ファイナリストのジョマール・ソリアーノで、この作品で第3回同賞に入賞しました。浦沢直樹に影響を受けたと思われるタッチで、開けてはいけないものを開けてしまった若者たちの過ちと責任を描いています。アメコミが苦手な人は英語もそんなに難しくないので、この本から読んでみてもいいかも。あとどうでもいいことですがニャルラトホテプがイケメン。(これも1とクレジットされてますが1巻完結です。)

と色々と紹介しましたが、モノによっては Amazon.co.jp で手に入れづらいものもあるかもしれません。その場合は、本国 Amazon か英国の Book Depository には在庫があったりもするので、カードがないといけませんが、そちらを探してみてもいいかも。