Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

Seven SeasのManga

どうも2ヶ月ぶりですこんにちは。海外マンガを紹介し始めてもうすぐ1年ですか。早いものですね。そんなわけで、今回は出版社を変えて、Seven Seas Entertainmentから出ている日本スタイルのマンガを取り上げてみようと思います。

むろんこの出版社も他の例に漏れず、日本マンガの翻訳出版をするかたわらオリジナルを出しているという感じで、扱っているのはトップページにもあるように「僕は友達が少ない」のコミカライズや「クローバーの国のアリス」「とある科学の超電磁砲」、あと「GUNSLINGER GIRL」や「かのこん」、それからYA小説もちょこっと出しています。現在はマクミラン傘下のレーベルですが、00年代後半にオリジナルManga(主にファンタジーもの)を色々模索しつつ精力的に作っていました。

このブログでもすでに[クトゥルー神話もの海外コミック]の記事で1冊(「Arkham Woods」)を紹介済ですが、他にも色々ありますので読んだもの(そのなかで比較的面白かったもの)をいつも通りにレビュー致しますね。

Hollow Fields

Hollow Fields 1-3: Omnibus Collection

Hollow Fields 1-3: Omnibus Collection

  • 全3巻

【内容紹介】親の都合でお堅い寄宿制の女学校へ入ることになった9歳の赤毛少女ルーシィ・スノウ。ところがひょんな間違いから蒸気と歯車のひしめくホロウ・フィールズと呼ばれる学園へ入学するはめに。最初は喜んでいたルーシィだったが、実はその学園、マッド・サイエンティストを養成する秘密学校で…… 蒸気アンドロイドに禁じられた科学、それから謎の落第生徒失踪事件――普通の女の子であるルーシィは無事いい成績と親友を得て学園を生き延びることができるのか?!

この作品が Seven Seas の個人的ベスト。スチームパンクとジュヴナイルがうまく融合した秀作です。穴あきリボンとしましまタイツというちょっぴりパンクな格好で冒険する主人公は、調子乗りで不器用ながらも勇気で窮地を切り抜ける小さな勇者。ホロウ・フィールズの裏にある陰謀に恐竜のぬいぐるみを抱えて立ち向かっていく彼女の成長が楽しい、今時あんまりないくらいのわくわくする児童文学です。全篇500ページありますが、英語もやさしめですので、あっという間に読めちゃいます。

少年少女たちの出会う〈未知の何か〉に〈スチームパンク〉を当てて、お話としてはその少しダークな世界のなかで主人公にひとつの決断をさせるわけなのですが、そこに至るまでの流れもよく練られていて、大人が読んでも面白いのではないでしょうか。そのほか蒸気機関で動くアンドロイドのメイドや、高飛車なライバルに、ツンデレな少年、主人公の導き手となる〈四角い箱〉などなど、キャラも様々揃っております。(個人的には主人公の声がずっと金元寿子さんで再生されてました。)

物語・作画をひとりでこなすマデリン・ロスカはタスマニア在住の女性。まんまるしたやわらかい絵柄は、相当の画力がうかがえ、日本のマンガに慣れた人にも難なく受け入れられるでしょうし、実際外務省主宰の国際漫画賞で第一回奨励賞をこの作品で獲っています。

Seven Seas では、完結した作品やある程度続いている作品には合本がありまして、冒頭に掲げた本は3巻が一緒になってるお買い得なもの。単巻は以下です。

Hollow Fields 1

Hollow Fields 1

Hollow Fields 2

Hollow Fields 2

Hollow Fields 3

Hollow Fields 3

そして、こちらはロスカが満を持して出した新作。Hollow Fields と世界観を共有しているのですが、HFが現在を舞台にしていたのに対し、こちらはその謎の発端となる19世紀末英国ロンドン、親の取引先であるスチームパンクな会社へ預けられた不良少女と、蒸気アンドロイドの真面目な少年のふたりが繰り広げる冒険譚です。出版社が変わって日本風のMangaに不慣れなためか編集ミス(裁ち切りがおかしい等)があちこち散見するのが残念ですが、こちらも続きがたいへん気になります。

The Clockwork Sky 1

The Clockwork Sky 1

Destiny's Hand

Destiny's Hand: Ultimate Pirate Collection

Destiny's Hand: Ultimate Pirate Collection

  • 全3巻

【内容紹介】良家の少女オリヴィア・ソルダナは、親の決めた結婚から逃げるため、ある日自分の乗った船を襲った海賊――人をけして殺さぬ紳士海賊団――に自ら身を投じる。そして16歳に成長したオリヴィアは、親代わりの瀕死の船長からある夢を託される……「世界を守るために、秘宝〈悪魔の目〉を見つけてくれ!」 敵・仲間・裏切り・恋――宝をめぐる少女海賊ロマン!

今やワンピースやパイレーツオヴカリビアンで日本でもお馴染みの海賊ものですが、本場のアメリカでジャパニーズマンガになるとすると、ある意味逆輸入という感じなのでしょうか。少女が主人公ということで教育的配慮なのでしょうか、不殺を貫く〈紳士海賊〉というのもテーマに絡んできて、世界を救う動機の背景になっています。物語としては、少女に海賊船長がつとまるのか難題頻発、といった趣で、船長だけに忠誠を誓う頑固船員や元婚約者・船長の隠し子なども出てきて、主軸の宝探しに彩りを添えていたり。タイトルの〈運命の手〉は船の名前で、5本の指に当てはまる仲間が揃えば必ず運命はこの手にやってくる、というもの。

作画としては1巻表紙のオリヴィアがたいへん可愛いのですが、コマ割や動きのレイアウトが日本風なのに線がかなり一本調子で硬く、所々書き込みの甘いところや崩れたところもあるので、高望みをしないくらいがちょうど良いです。なおこの作品は第3巻のみ単巻がなく、合本がないと完結しませんのでご注意を。

Destiny's Hand 1

Destiny's Hand 1

  • 作者: Nunzio Defilippis,Christina Weir,Melvin Calingo
  • 出版社/メーカー: Seven Seas Entertainment Llc
  • 発売日: 2006/06/28
  • メディア: ペーパーバック
  • この商品を含むブログを見る
Destiny's Hand 2 (Destiny Hand)

Destiny's Hand 2 (Destiny Hand)

Avalon: The Warlock Diaries

Avalon: The Warlock Diaries

Avalon: The Warlock Diaries

  • 作者: Rachel Roberts,Carmela Doneza,Edward Gan
  • 出版社/メーカー: Seven Seas Entertainment Llc
  • 発売日: 2010/12/07
  • メディア: ペーパーバック
  • この商品を含むブログを見る

  • 全3巻

【内容紹介】エミリー、アドリアニ、カーラの3人は、魔法少女にしてレイヴンズウッド野生動物保護区の守り人。それぞれ不思議な力を持つ動物をパートナーに、協力して森を外敵から保護しつつ、保護区のなかにあるという魔法の国アヴァロンへ至る門を探している。そんな3人のもとへ転校してくる美少年、なんと彼は〈魔法〉と相反する力〈魔術〉を使う魔術師で…… 陰謀迫るレイヴンズウッド、そしてカーラの恋の行方は?!

こちらには原作となるYA小説(レイチェル・ロバーツ「アヴァロン:魔法の網」シリーズ/未邦訳)があるのですが、このマンガ自体はそのスピンオフ的なオリジナルストーリーです。自然環境保護・野生動物保護と魔法ファンタジーを絡めた全12巻の原作小説は、彼の地ではなかなかの人気だとか。主人公は、穏やかだけど芯のある赤毛のエミリー、真面目でボーイッシュな黒髪のアドリアニ、元気で積極的な金髪のカーラ、という組み合わせで、往年の子ども向けTVドラマを彷彿とさせつつ、現代的な問題をストーリーの軸に据えてパークレンジャー的な活躍を魔法という味付けで面白く見せています。

作画は Seven Seas でたくさんの作品を手がける Shiei(カーメラ・ドニザ)、この方の近年の絵はかなりこなれていて、生き生きとしたコミカルな絵もアクションも得意、たぶん Seven Seas だけでなく日本以外の日本マンガ風の絵を描く人たちのなかではトップクラス。単巻の表紙は彼女によるもので、合本は同社から出ている小説新装版の挿絵画家によるもの。

Avalon 1: The Warlock Diaries (Avalon: Web of Magic)

Avalon 1: The Warlock Diaries (Avalon: Web of Magic)

Avalon: The Warlock Diaries 2

Avalon: The Warlock Diaries 2

Avalon 3: The Warlock Diaries

Avalon 3: The Warlock Diaries

It Takes A Wizard

It Takes A Wizard

It Takes A Wizard

  • 全1巻

【内容紹介】滅びの街となったニューヨーク――ある日魔物の大群に襲われ壊滅したマンハッタン島へ、ひとりの少年が送り込まれようとしている……アイザック・シルヴァーバーグ、滅びの原因とされ拘留中の人物だ。「お前のせいじゃないのはわかってる、わしの娘を〈真夜中の王〉から奪還してくれ」とある軍人に頼まれ、罪の意識に苛まれながらも島へ渡る少年、そこで出会ったのは島でただひとり生き延びた少女だった……

俗に言う中二病テイストな作品。主人公は割とうじうじしっぱなしなんですが、負けん気の強いホープちゃん(たぶんキラキラネーム)がかわいいので途中からどうでもよくなります。基本主人公はオレTUEEEEEEな人でハラハラはしないので、主人公と〈真夜中の王〉の共依存的な関係とか、主人公の罪悪感とか、そういうノリが好きな人は楽しめます。この作品はなぜか分厚い500ページの合本しかありません。 Seven Seas の作品はサイトでプレビューができますので、そちらを確認してみてもいいかも。タイトルは作中の台詞で、「それには魔法使いがひとり必要」くらいの意味でしょうか。

Vampire Cheerleaders

Vampire Cheerleaders / Paranormal Mystery Squad Monster Mash Collection

Vampire Cheerleaders / Paranormal Mystery Squad Monster Mash Collection

  • 既刊2巻

【内容紹介】ファイト、ファイト、ベイカータウン! 高校アメフト部を応援する憧れのチアリーダーたち、実は彼女たちは吸血鬼で……? 自分たちの素性を隠しながらチアと性を楽しむ吸血鬼5人組、しかしひとりがヘマをして欠員が出てしまう。そこでサブの下級生チームからオーディションで新たな吸血鬼候補を選ぼうとし、彼女たちは初心で可憐な娘に目を付けるが、その幼馴染みに吸血鬼のことをかぎつけられ―― 併録は化物退治稼業の少女たちの物語、仕事のミスからリーダーの妹がケモノ娘に?!

やはりチアリーダーというと、向こうではサキュバス的イメージがあるのでしょうか。チアリーダー吸血鬼なんていうと怪作映画「チアリーダー忍者」を思い出してしまいますが、この作品は物語・作画も整っていて、題名から予想されるエロ要素以外にも楽しみどころが色々。主人公のローリは一見ブロンド女性のステロタイプそのままと思いきや、真面目にチアやりたいから吸血鬼として長生きして何度も高校生やってるというその殊勝さ。そして意外に部活ものとして頑張る姿に心打たれないこともない、ちょいエロな「けいおん!」みたいな。なので途中でチアの一員になる下級生のヘザーは、そのキャラも相まってわたしのなかで勝手に「エロいあずにゃん」と呼ばれていました。

この作品は、表題のチアリーダー吸血鬼だけでなく、世界観を共有したもう1本の作品が一緒に収録されていて、そちらの題は「Paranormal Mystery Squad」。スクールカースト的にはチアと真逆のゴス少女を主人公に、化物退治サークルが活躍する物語のはずなのですが、こっちはかなりギーク感あふれる内容で、とりわけ第1話は度し難いほどお下劣なオチが待っています(思わず「へ、変態だ!」と叫んだほど)。ぜひ第1話のタイトルは辞書引かずにわからないまま読んでください。ちなみに作画はチアと別の方です。

と、わたくしそれなりに楽しんでいたこの作品、3巻目に入って2作品が交差する新展開を見せたのですが、いかんせん作画があんまりうまくない人に交代してしまい、ものすごく残念な気持ちになっております。ちなみにマンガ自体はネットからフリーで読めます(公式)。

Vampire Cheerleaders 1: Fang Service

Vampire Cheerleaders 1: Fang Service

Vampire Cheerleaders 2

Vampire Cheerleaders 2

Vampire Cheerleaders Must Die!

Vampire Cheerleaders Must Die!

Free Runners

Freerunners 1 (Free Runners)

Freerunners 1 (Free Runners)

  • 全1巻

【内容紹介】ブルックリンの少年スティープは、やる気のない日々を送っていたが、あるときバイト先に現れた万引き犯のアクロバットな逃走に、追いかけながらも心惹かれる。その翌日、万引き犯の友人と名乗る少女に連れて行かれた先には、パルクールと呼ばれる競技に命を賭ける少年少女たちが集まっていて…… 街を走り、屋根を跳び、壁を昇る――心技体で恐怖を克服していくスティープのもとに、現れた人物とは?!

なんだかすごく前衛的というか挑戦的なマンガ。おそらくは日本にはないアメリカらしい新要素をジャパニーズスタイルコミックに持ち込めないかと考えてこうなったんだと理解はできるのですが、いかんせん題材が難しかった。日本ではリュック・ベッソンの映画『YAMAKASI』で知られたアクロバット体育のパルクール(フリーランニング)ですが、その動きや妙をマンガで表現するにはちょっと力が足りず、マンガ自体も1巻の3/4ほどで終了、打ち切りエンドっぽい〆になっています。とはいえ、作画のジェニソン・ロゼーロはかなりデッサンのこなれた上手い人なんです、でもマンガとしてパルクールの躍動感を描き切れていなくて、たいへん勿体ない感じ。売り上げとしても、パルクールを楽しむ層とマンガを愉しむ層はたぶん重ならないから、厳しかったんじゃないかな……と邪推致します。

InVisible

InVisible

InVisible

  • 全1巻

【内容紹介】女子高生モデルのケイは、かねてからの念願叶って撮影で憧れの日本へ行くことに。胸を躍らせながら、マネージャー兼ボーイフレンドのエイドリアンとフライト前の一夜を過ごしたのだが、朝目覚めてみると、なんと身体が男に変わっていて……?! 女のふりをしながら周囲の協力もあってモデルの仕事をこなしていくケイ、その果てに見えてきたものは……

こちらも1巻完結なのですが、内容的には消化不良の残る打ち切りっぽいエンド。もう少し性自認的なテーマが深まるかと思っていたのですが、投げっぱなし。日本外で書かれるジャパニーズスタイルコミックにありがちなのですが、〈日本のようで日本でないどこか(異世界)〉というふわふわした世界に主人公が住んでいるんですよね。面白いのは、その住人が実際に日本に来ちゃうところなんですが、それでもやっぱり日本になりきれてない感じで、「その電車の作画おかしい!」とか気になっちゃうので、なんというかもうちょっと思い切って欲しかったかも。

No Man's Land

No Man's Land

No Man's Land

  • 2巻打ち切り

【内容紹介】荒野を歩く〈ノー・マン(名無し)〉の名を持つガンマン。稼業はデーモン・ハンター。ある理由から、おのれの罪滅ぼしとして邪神・化物の類を退治して回っている。そんな男と妙な縁から行動をともにすることになったならず者の小太り中年。そしてガンマンを付け狙う謎の男。3者の思惑、過去と現在が絡み合いながら物語は進んでいく……

Seven Seas には物語中途で打ち切られたマンガがたくさんありまして、できるだけ紹介しないつもりでいたのですが、これだけはどうしても惜しいので取り上げます。その理由はすぐわかります。

なぜならこのマンガ、クトゥルー神話西部劇なんですっ! そんでもって絵も上手くて超かっこいいんですよ。西部劇好きならわかるオマージュを様々仕込みながら、がしがし神話生物を倒していくとなったらそりゃあ面白く読みますって。まあガン×ソード(おっさんヒロイン版)みたいな話ではあるんですが、2巻の末がちょうどクトゥルー神話がらみの過去話が一区切りついたところで終わっているので、わたくしとしては続きが気になってしょうがない。でも出ません。なんてこった!

(追記:この作品には、刊行当時販促で作られたフラッシュアニメが存在します。ただいま絶版ではありますが、雰囲気をつかむ一助にはなるかと。公式ページからどうぞ。添えられた「未完成」の文字が悲しい……)

No Man's Land 2

No Man's Land 2

というわけでざっと Seven Seas から出たオリジナルマンガのレビューでした。次はデルレイから出てる Manga の紹介になると思います。ではでは。