Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

聖なるチョコレートにしかるべき賞賛を

(2015年ごろ雑に訳してあった17世紀のチョコレート詩。基本的には、滋養強壮のお薬だった頃のチョコを描いたものです。)

聖なるチョコレートにしかるべき賞賛を(1652)
ジェイムズ・ウォッズワース

医者どもよ、その煩わしい書を
伏せよ、頭の足りぬカラスどもも
黙るがいい、明らかにするのだ、
われらがチョコレートの効能を。

(死人の骨や皮から作られる)
かの万能薬などもはや金輪際、
禁法なものとし、かつ至高の
チョコレートに座を譲ればよい。

淫らな湯などもう使わずとも、
熱気こもるサウナなどバビロンの
毒婦以外不要なのだ。なぜなれば
幸い我らにはチョコレートがある。

老人の靴には模造香を詰めておけば
よい、これ以上、世界を辱めては
ならぬ、代わりに熟考せよ、
チョコレートの素晴しさなるものを。

(腕利き)トリッグ医師ももう西の
森の泉くんだりまで行くまでもない。
成程その水はお清めにはなるが、
所詮チョコレートの滓なのだから。

ユダヤ教からキリスト教を引き出し、
君主制から政府を生み出せるという
錬金術パラケルススの徒どもには
チョコある故に蒸留器を皆割らせよ。

我ら手傷の話をされるくらいなら、
墓に送られた方がまだましなのだ。
この傷、チョコレートで流さぬ
限り、きっと膿んでしまう故に。

かの華やかなる聖人も、酒場の
酒盛場まで来たりはしないだろうが、
(精神に活を入れるためには)
チョコレートを何杯も(家で)飲む。

その妻も(分別ある人であるので)
しかるべき情けの心を欲するとき、
育ち盛りの赤子がいる時期などには、
チョコレートを啜るのが常である。

軍人でも飲み騒ぐ連中というものは
骨の髄まで腐りきっているわけだが、
いったんチョコレート漬けにさえ
すれば、連中の体もたちまち正常に。

地所はあるが知恵足りぬ若様も
その味をひとたび知りさえすれば、
チョコレート離れするくらいなら
全財産なげうってもいいとまで。

自然を顔と手を覆うベールとした
現地の栗色の乙女たちの軽やかな
その美しさたるやまさに高級で、
チョコレートを一口飲んだおかげ。

しかも日々、美しさを磨くための
付けぼくろ代の分、金が浮くのだ、
近頃、この神聖なるチョコレートが
見つかるまでかかっていた代金が。

化粧代でお悩みお嘆きのご婦人も
もう大丈夫、ご安心ください、
これがすぐさま解決してくれる、
チョコレートをなめるだけでいい。

はげしい消耗も(請け合いますが)
たちまちばっちり健やかになる、
(お財布の中身が消耗する場合を
のぞいて)チョコレートが解決だ。

それだけ。効き目はそれで充分、
少し具合や気分の悪い貴婦人も、
そのつらさが軽くなるはずなのだ、
チョコレートを嗅ぎさえすれば。

その性質から女主人にとかく
こき使われてしまうひ弱な男も、
ああなんと気付けとなろうか、
チョコレートがもらえるのなら。

老女をも、若く健やかにせん、
体の動きがやわらかくなり、
ほらあれだって長持ちするのだ、
チョコレートを味わいさえすれば。

町議会議員にも、会期中ずっと
気力の続くものはいないわけだ、
国の役に立っていないというなら
初めと終りにチョコレートを飲め。

市民の貞淑な妻であっても
やはり長生きは無理であろう、
(裏口を開けっ放しでは)
チョコレートを飲まぬ限りは。

レビの方々にもまったく問題なし、
おかげでその敬虔な心も温かいまま、
さらに頭の毛だって伸びてくる、
チョコレートを飲み続けるのなら。

高き者も低き者も富めるも貧しきも、
ご主人様も奥方様も、その××だって、
ビリングズゲート市場の面々も揃って、
ももつけてチョコレートにご挨拶。

(おしまい)


もちろん、こういう詩はいわゆる販促のためのもの。疲労とか咳とかペストに効くとか謳われて、チョコレートで健康に!みたいな感じで、飲み物として(当時は油っぽくて酸味や苦みがきつくてまだそんなに美味しいものではないのだけれど)売られておりました。

あと美容にも効くとか、偉い人も飲んでるとか、ろくでもないやつには飲ませろとか、何だか健康食品の売り方は今も昔も変わりませんね。 ちなみに下の挿絵はチョコレートを飲む貴族(Wikimedia Commonsより)。

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