Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

マルーシャ・チュラーイ「風が吹いている」

"Віють вітри" by Маруся Чурай (1625-1653)

風が吹いている 風がうなる
木々もしなる
わたしの心は痛むのに
もう涙も流れない

えんえん嘆き悲しんできたけれど
終わりは見えない
いっそ泣き叫んでも
気持ちが楽になるだけ

涙は幸せを取り戻してくれない
気休めになるだけのこと
つかのま幸いだった人は
死ぬまでそれが忘れられない

わたしのめぐりあわせを
うらやむ人たちもいる
野に生える草がそれだけで
幸せだとでもいうの?

しずくもなく陽にさらされて
野や土だけでどうなるというの?
愛するあなたがいないまま
ふるさとにひとり生きるつらさ

あなたはどこ 愛しい黒まゆさん
どこにいるの 返事をして
ここであわれに泣き暮れている
わたしを どうか見つけ出して

あなたのもとへ飛んでゆけたら
でも わたしには翼がない
あなた恋しさに枯れ果てそうな
わたしに気づいてほしいのに

誰に抱きつけばいい
誰に抱き寄せてもらえばいい?
だって今いないのだもの
わたしを愛してくれる人は

 

(マルーシャ・チュラーイは、ウクライナのサッフォーとも言われる詩人。戦地へ行った恋人をふるさとで待つつらさを、孤独な雑草にも喩えつつ詠う。)

マルーシャ・チュラーイ(切手)