Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

翻訳メモ2

1ヶ月ぶりの草稿更新です。このままこのペースで行けるかなあ……行けるといいなあ。筆が乗ってしまうとさくさくと進むんですけどね。予定とはなかなかうまく行かないもので、困ったものです。

やはりアリスの翻訳で誰もが苦しむのは言葉遊びでしょう。確かにまったく別の言葉遊びを作ってしまえれば、楽といえば楽なのですが、個人的には原典とかけ離れたものにはしたくなくて。そうするとどこまでも悩まざるを得ません。

Mock-Turtleの訳語は、柳瀬尚紀さんの「海亀フー」にならって「ウミガメフーミ」に。翻訳史的に柳瀬さんになるまでこの訳語が出てこなかったのはびっくりするのだけれど、日本である種のMockなスープが一般的に広まるのは、たとえば「松茸風お吸い物」とかを待たなくてはならないんですよね。永谷園の「松茸の味お吸いもの」が発売されたのが1964年なので、「松茸風」が定着するのはもっと後でしょうし。「みりん風調味料」なんかもMockなものとして上げられるし、そりゃあ「鱈とポテトのグラタン地中海風」とかはあるけど、そこから一気に逆成して「海亀フー」はちょっと厳しい。

翻訳には、その当時では訳せなかったけど、時代が変わる(追いつく)ことによって訳せるようになる、という言葉が結構あります。こればかりは、どれだけ翻訳者が有能でも、いかんともしがたいところがあるのでしょうね。

今回のアリス挿絵ご紹介はこちら。メイベル・ルーシー・アトウェルのもの。挿絵画家としては結構有名な人で、いろんな児童文学の挿絵でよく見ます。テニエルの描いたアリスの服は、当時のイギリスの流行服になっちゃいましたから、割と近い時代の挿絵画家はあえてあの服を取り入れない傾向にあると思います。100年以上経つと、逆にあれこそアリスの服装として取り入れられがちですよね。