Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

『川の光』平川哲生監督Twitterコメンタリまとめ

今日NHKで再放送されたアニメ『川の光』ですが、監督の平川哲生さんがTwitterで放送中にリアルタイムでコメンタリをしてくださったので、ここにまとめて転記いたします。わかりやすいように、その発言に通し番号を振って、さらにアニメが始まって何分後のものかも書き加えました。あとから見る方も数字を見ながら追体験してみてください。(あとコメンタリに対する私のコメントがうざかったらごめんなさい。)

7月20日の総合テレビ、午前8時35分から、アニメ『川の光』の再放送があります。もし運良く私が起きていたら、twitterコメンタリとかやってみます。よろしくどうぞ。

幸か不幸か起きていますので、アニメ『川の光』再放送に合わせてtwitterコメンタリをやります。どこまで書いていいのやら、なにを書いたらいいのやら……。タイピング速度もあるので、ちょっと下準備をしておきます。

remove覚悟の上で連投します。最初にあやまっておきます、すいません。

(0)ニュースの放送中ですが、のんびりと、アニメ『川の光』のtwitterコメンタリをはじめます。原恵一さんには「すべて正直に言え/書け」と言われているので、たぶん、ぶっちゃけ話もします。(放送5分前)*1

(1)アニメ『川の光』は、6月20日の本放送、28日のBS再放送、今日は再々放送になります。本放送の視聴率はふるわなかったのですが、反響の多さから、このような短いスパンの再放送になったと聞きました。涙がちょちょぎれるほどうれしいです。みなさま、ありがとうございます。(4分前)

(2)まずはじめに、演出未経験の私がなぜ監督に抜擢されたか? メディアでは「原恵一さんの推薦」と語られていますが、本当は茂木プロデューサーの推薦です。原さんは「茂木が言うなら」という感じだったとのこと。私が言うのもなんですが、無謀にもほどがあります……ありがたいことですが……(3分前)

(3)演出協力の原恵一さんは何をしたのか? シナリオ打ち合わせに出席して、私の絵コンテをチェックしました。通常のコンテ・チェックは監督が絵・セリフ・ト書き消して直しますが、原さんはメモを残す。たとえば「こんなセリフはどう?」とか「アオリの構図がいいのでは」など。(3分前)

(4)その後あれこれ相談して、私がコンテを清書します。全930カットのうち、原恵一チェック後に修正したのは、だいたい50カットほどだったと思います。放送後、私が「作品に原さんのテイストを感じた人が多かったみたいですよ」と伝えたら、原さんは複雑な心境だったようです。(2分前)*2

(5)とはいえ原恵一さんの役割は小さくありません。私はチェックに通るコンテを意識したので。1カットだけ流背(専門用語です)を使おうと思ったら、「これキライ」とメモが書かれていて笑いましたw。キライって……。あとNHKエンタープライズ・廣岡篤哉さんのコンテチェックにもお世話になりました。(1分前)

(6)脚本は吉岡たかをさんが第三稿まで、私が第四稿を書きました。第四稿は絵コンテを想定して、プロット整理やセリフ改変など、大幅に書き換えたため、部分的にシナリオ打ち合わせの内容を無視する形になってしまい、いろいろ申し訳なかったです。この作品の台詞のミス(後述)は私の責任です。(0分前)*3

(7)はじまった!(放送開始)

(8)冒頭から音楽がいいですねー。レコーディングに立ち会いましたが、栗原さんはその場でがんがん楽譜を修正するんです。音のニュアンスもどんどん変える。楽器奏者はそれに柔軟に対応する。鳥肌モノでした。私は8トラックMTR宅録少年だったので、夢の現場でした。(0:36)

(9)原恵一さんも言ってましたが、この作品のシナリオ打ち合わせは、とても良かったと思います。アイデアがたくさん出て、それを可能なかぎり活かすようにしました。私は初監督なので知らないのですが、生産的でないシナリオ打ち合わせも多いとのことです。(1:05)*4

(10)動物といえば「丸くなる」作画! でも、これは実は原作どおりだったりします。(1:37)*5

(11)75分の作品なのでB級の系譜は少し意識しています。シーゲル、リュイスなどですね。結果、フォードとホークスへのいびつな愛情のしみこんだ作品になったと思います。宮崎駿さんへのいびつな愛情もあり、お父さんのヒゲいじり癖は、これです http://tinyurl.com/kmxl8z (1:52)*6

(12)こういうところは演出家にとっては大問題ですが、視聴者の方はぜんぜん気にしなくていいと思います。いちおう、せっかくなので、書いておきます。ただ、やっぱり、この作品の演出は映画っぽくはないですね。当時の私は、CMなしのテレビ75分を見せきることを意識していたんだと思います。(2:39)*7

(13)いやあ、声優が豪華ですねー。お父さんの台詞「お前が食べ過ぎなきゃね」は原さんのアイデアですよ。(3:10)

(14)ペットボトルあたりの美術は男鹿さんです。ふつう背景は美術ボードに似せるものなんですが、もう完全に男鹿流ですね。すばらしい。ありがたや。美術監督の稲葉さん、日野さんは「男鹿さんの絵はまねできない」とか「あの絵は、音楽のライブみたいに、再現不可能」と言ってました。(3:22)
*8

(15)うう、書いてると見れない。見ていると書けない。コメンタリってむずかしい……(3:41)

(16)画面がロングショット主体なのは理由があります。アップ主体のネズミ目線は、地面などの一部しかフレームに収まらず旅の感じが出ないこと。ネズミ目線が面白いのは20分が限界ということ。『ガンバの冒険』の手法を避けること。作画が楽なこと。結果的に美術の負担が大きくなってしまいました。(4:05)*9

(17)金田朋子さんの熱演が! 人差し指をくちびるにあてて、ぶるぶるさせて「ぶくぶく」の声を出してました。(5:30)

(18)滝に落ちたチッチが浮かび上がって、タミーに助けられるあたりの原画は、加藤寛崇さんです。制作さんに「ちゃんとチェックしてください」と笑われ、私は「完成画面で楽しむからいいのだ」と答えたほど、ノーチェックで通せる、すばらしい原画でした。作画マニアは要チェック。(5:37)*10

(19)現実のタミーは来客に頭からどーんと突っこんでくるお転婆な犬なのですが、平野綾さんはその感じをうまく出してますね。かわいい。タミーは最初・中ごろ・最後と短い出番ながら、印象に残ってもらう必要があったので、華のある平野さんにぴったりだったと思います。(6:23)

(20)レイアウト、アイレベルが変だったりしますが、わざわざ変な感じに描いてください、と指示した結果だったりします。数えてませんが、レイアウトは6割くらい自分で描いたと思います。(7:42)

(21)Aパートは絵コンテの軸がぶれてます。まだスタイルというか、基調というか、トーンというか、そういうものを模索しているような印象。旅立つまでに14分しか使えなかったので、詰めこんでるのは仕方ないとしても、構図、カット割り、いま見るとつらいです。出発したBパートからマシになるような……(8:36)

(22)山寺さんのお父さんはいいですねえ。少し頼りないけど、やさしいお父さんの感じがすばらしい。山寺さんは、あっという間に指示に対応できて、プラスアルファで演技を加えてもらえるすごい方でした。私は、山寺さんなら『御先祖様万々歳!』の多々良伴内の役が好きです。(9:35)

(23)「川はタータの母だった」と原作では地の文で直接描いていますが、どうやってアニメ化すればいいのか、迷いました。結果、ごうごうという母体のような音にしてみました。こういうのってむずかしいですね。(10:42)

(24)木が切られるあたりから、夕方まで、原画は黒柳トシマサさんです。若いし、うまいし、イケメンだし、まったくもってけしからん原画マンです。ありがたや。(10:58)*11

(25)爺さんネズミ役は青野武さんですよ! なんという贅沢! マイケル・ペイリン! 青野さんの声は「きこりの歌」つながりで、この直後の切り株の場面に進む伏線なのです(嘘)。(11:19)*12

(26)環境破壊はいま、たくさんの説が入り乱れている状態で、とてもアニメでは扱えません。もし扱うとしたら、ロンボルグ的な視線も入れて「近視眼的にならないよう、真剣に考える必要がある」くらいの主題になると思います。問題意識は高まっていくでしょうし、これから扱われるべき大きな主題でしょう。(12:05)*13

(27)護岸工事は環境破壊か? 答えはNOだと、視聴者の私は思います。監督の私は、巣が壊されるショックを描くために、悪者あつかいする必要があると考えていたようです。(12:51)*14

(28)折笠富美子さんのタータはいいですねー。原作はタータが主人公なんですが、アニメはチッチの活躍が増えてます。が、折笠さんの演技で、タータが前に出てきたように感じました。(14:00)

(29)三匹が並んで走る場面(3カット兼用)と、イタチに襲われる場面の原画は植村淳さんです。ありがたや。ネズミの走りは、急ぐときは2コマ中2枚、通常は3コマ中2枚。動物の走りはパターンが少ないので、ガンバに似ています。植村さんのところは2コマ中3枚で、空中ポーズが入ります。(14:15)*15

(30)ちなみに原恵一さんは、当初、このイタチを中心にした物語を考えていたようです(原作にもある)。それじゃガンバになってしまう、という理由で、いまのような形になりました。それくらいガンバは恐ろしい作品なのです。アニメ史に向き合うなら、これ以外の選択肢はなかったと思います。(14:29)

(31)夜、根で三匹が寝ているカットは、写真をそのままレイアウトに使ってます。写真をレイアウトに使ったのは、自然物では、ここと冒頭の川の3カットのみ。バス車内はさすがに写真レイアウトが多いですが、ほかは基本的に写真は参考程度にしました。(14:47)

(32)自転車のかげに隠れて走り、猫を避ける部分は、某映画からアイデアをいただいてます。(15:30)

(33)チッチの「え〜、もう旅行はおしまい?」という台詞は、原恵一さんのアイデアをいただきました。前述の「お前が食べ過ぎなきゃね」といい、なんか、原さんらしいですよね。(15:57)

(34)ドブネズミたちに会ってから、チッチが転ぶまでの原画は、石井邦幸さんです。丁寧な仕事ぶりで助かりました。かなり立体的に描く方で、ほかの原画とは耳の形などがちがいます。(16:48)*16

(35)ドブネズミたちについて、原恵一さんは「聞き分けのない乱暴ものが良い」と考える。私は「話せば通じるやつらであってほしい」と考える。ここらへん好対照ですね。いろいろ話し合った結果、原さんの方のプランにしました。(17:05)

(36)クマネズミは、人間を利用して、レストランの自動ドアを出入りするみたいですよ。能力が高すぎる。(18:24)

(37)つるや食堂は、松浦さんの小説『半島』から名前をいただきました。『半島』に登場するつるや食堂はもう少し小ぎれいだと思うんですが、アニメではネズミが出てきてもおかしくない、時代がかった建物にしました。(18:36)

(38)ドブネズミがトリモチにかかるアイデア原恵一さんのものです。(19:23)

(39)赤い郵便ポストあたりは、レイアウト、BGの兼用を考えて脚本を書いてます。涙ぐましい……(20:09)

(40)まあ、ぶっちゃけ、ホークスです。(20:30)*17

(41)子供たちが排水溝を泳いだり、グレンに誘われるまでの原画は高野登さんです。私は高野さんの原画が好きなんですよ。ベテランの風格といいますか、シンプルかつ的確で、まちがいようのない原画、撮影指示、タイムシート。完成画面では伝わらない部分ですが、とても頼りになるうまさです。(20:52)*18

(42)ベテランの風格は、この作品では、山内さん、高野さん、山崎さん、小野さん、寺田さんの原画で見ることができます。ありがたや。作画マニアの方々は、作画の実作業を経験してないと判別がむずかしいのですけど、ぜひこういう原画のうまさにも注目してみてください。(21:13)*19

(43)横向き歩きのリピート作画、スライドは、単純ながらいちばんのリテイク回数でした。前足にあわせると後足がすべり、後足にあわせると前足がすべってしまう。むずかしいもんです。(22:18)

(44)図書館のCパートは、鏡・ガラス・モニタ・ピアノ、逆さまの本『川の四季』、逆卵型の下水道。ねちっこく反転・反射を描く画面構成です。主人公たちが屋上に上がるまで、カメラは建物の外に出ません。図書館は窓ガラスがポイントになるので、モデルを杉並区立図書館にしました。(23:02)

(45)グレンの登場から別れまでが約11分です。テレビシリーズの半パート分。短い場面ですが、大塚明夫さんの演技がすばらしく、印象に残るキャラクターになったと思います。ちなみに原作のグレンは、ソシュール以後のポストモダン社会に生きる人間の苦悩を理解しているような、賢者ネズミです。(23:20)*20

(46)収録は一日で終わらせる強行軍でした。お昼の弁当休みも早くすませよう、「30分くらいか?」と話していたところ、大塚さんがあのいい声で「15分だ!」と勇ましく叫び、笑いをとってました。大御所の声優さんたちは、技術も一流ですが、現場の雰囲気づくりもすごいんですよね。勉強になります。(23:47)

(47)大塚さん、マジでかっこよすぎるぜ……(24:02)*21

(48)鏡やモニタに映るグレンは、やっぱりアングル的におかしいですね。絵コンテに「おかしいですが堂々とやりましょう」と書いたのは自分ですが…。当時の私は、リアリティに足を縛られて窮屈な演出をしてはならぬ、などと考えていたんでしょう。視聴者の私は全体的にそういう傾向を感じました。(24:44)*22

(49)原作のドブネズミ帝国が削られてしまったので、いちおう「なかにはいいやつもいるんだ」という台詞を入れました。ここらへん、面白いところなんで、ぜひ原作もお楽しみください。(25:54)

(50)グレン大塚さんと、タータ折笠さんのからみは抜群ですねー。いいわー。(26:42)

(51)「そうなんじゃないか」とか「そういうことなんじゃないか」は、松浦寿輝さんの作品にたびたび登場するので、グレンの台詞にしてみました。(26:46)*23

(52)「スネークならダンボールに隠れるはず」という感想に笑いました。勉強不足でしたw。ただ、ハンカチに隠れるのは、バスの場面でタオルに隠れる伏線です。(28:15)

(53)チーズケーキ番長なのに、ショートケーキを出しちゃって申し訳ありません。チーズケーキって絵にならないんですよね……。まあ、食べるほうとしてはそこがいいんですけど……(29:28)*24

(54)給水機は原作になく、水の音、母の音、抱きつくタータ、川への思い、みたいなことをまとめて表現しようとした結果です。ここらへんはコンテを描いてうまくいったかも、と思いました。(30:40)*25

(55)大塚さん……。(31:02)*26

(56)シンメトリーの構図は、右を描けば左は反転してトレスできる、一枚描けば裏返しトレスで別カットも完成、という効率重視のために採用してます。みみっちいですね……(32:17)

(57)図書館からの大俯瞰のBGは5回くらい兼用します。大変なカットはとにかく使いまわす。エコロジーであります。(33:08)

(58)逆卵型の下水道、ここの背景は稲葉さんの担当です。描きこみすぎ!ありがたや。(34:08)

(59)「あの雫が落ちたら」あたりは原作にありません。原恵一さんに「別れの場面をもっとじっくり」と言われたので、あれこれ迷って、こうしてみました。(35:35)*27

(60)下水道、プラットフォームあたりの背景は草薙の方が担当です。とくにマンホールがかっこいい。「クオリティが高くて驚いた」と美術監督の若いふたり、稲葉さんと日野さんも言ってました。私も上がりを見て驚きましたね。ありがたや。(35:47)

(61)鉄砲水あたりの作画は、4カットほどが沓名さんの原画です。ここらへんは担当原画がとびとびなので、作画マニアの方でも見分けるのは難しそうですね。(36:16)*28

(62)下水道のDパートから、ブルーのEパートまで、クレジットにないですが虫プロダクションが作画を担当しています。が、かなり原画がこぼれたので、手分けして描いてます。私も少し原画を描きました。(38:02)*29

(63)下水道のマンホールから煙草が落ちる場面。原恵一さんは喫煙者ですが「こんなことする人はいるのか? このシーン必要か?」と言ってました。私は「する人もいる。闇にぼわっと浮かぶ光は面白い、水の勢いを表現するため、またカップ容器で流れるくだりの伏線になる」と言い張って、入れた場面です。(38:11)*30

(64)原恵一さんに口ごたえするとは、なんとも生意気な新人監督であります。しかし、ひとつの作品にふたり監督は立てないので、仕方ない。(39:10)

(65)カップ容器で流れる三匹、脚本ではお父さんの「しっかりつかまってろ!」という台詞が二回連続していました。が、山寺さんは何も言われずとも的確に判断して、二回目を「ちゃんとつかまってろよ!」に変更していました。これは収録中にいちばん驚いたことです。すげえ。(39:22)

(66)こういう台詞が二回連続してしまうミスは、実はけっこうやってます。すべて私のミスです。次から気をつけます(もし次があるのならば)。(39:34)*31

(67)カップ容器からチッチが落ちてしまうあたりは、石田慶一さんの原画です。暴れん坊ですねー。びっくりするくらい枚数の多い原画で、タイムシート等もひじょうに複雑、完成するまで画面がどうなるかわからなかったんですが、ど派手で面白い感じになったと思います。(39:56)*32

(68)ブルーのEパートは、手水鉢・猫ベッド・染料鍋と、凹のような形のものを3つ。瓦屋根と鍋蓋で抜けている上の面を覆う、という画面構成。最後に、指輪が鍋蓋の上に置かれていたのは、構成上の理由があります(レイアウトを兼用する目的もあります)。(40:20)

(69)少佐ーッ!(40:54)*33

(70)けっこう小さい紙で作画しているので、大きいテレビで見ると粗が見えますね……。(41:38)*34

(71)ブルーの家あたりは、美術監督が日野さんです。上品な感じですね。(42:56)

(72)内田百間の『ノラや』をやろうとして、やめました。ちょっと後悔してます。(43:38)*35

(73)ブルーが「白を受け入れよ」とさとすくだりは、汚れたチッチを手水鉢に落とすところ、汚れたチッチを舌でなめるところ、瓦屋根の上の場面で計三回くり返されます。ここらへんはアニメのオリジナルで、原作にない場面なんですが、好き放題やってるなぁ、と視聴者の私は思いました。(44:03)

(74)ブルー役の田中敦子さんの演技がまたすばらしいですね。なんというか、包容力があって、長台詞も説得力をもっています。こんなに豪華なキャスティングなら、もっと台詞を増やせばよかったですねえ。尺が厳しいため、一文字二文字の単位で台詞を削ったので、仕方ないのですが……。(44:30)*36

(75)ブルーは友達がいない、必要ない、という原作を少し意識して、野良猫を追い払う場面を入れてみました。(45:38)

(76)猫ベッドで寝ているお父さんに、タータが言う「ちょっと待ってね」の芝居が、実に折笠富美子さんらしくて、すばらしいですね。ここだけくり返して見たいほど。私は『あたしンち』のみかんファンなのです。(45:47)*37

(77)ブルーの家の台所、染物の機材がならんでいる場面の背景も草薙の方です。とても丁寧な仕事です。たくさん描きこんじゃって、ほんとすいませんでした。山本二三さんは公演で、「平川監督は空間(フレーム内の何も描かれていない場所)恐怖症だ」と言っていたようです。ほんとすいません。(46:11)

(78)染料鍋に入ろうとするチッチをブルーがはじくところ、絵コンテでは前足だったんですが、担当原画の方がしっぽに変更していました。ブルーはしっぽの雄弁なキャラクターだったので、私は「それだ!」と思い、すんなり変更しました。(47:00)

(79)私のぬるい絵コンテを適宜変更していただいた、ありがたい原画は、小野隆哉さんです。またしてもベテランの風格! 原画は演出の領域に踏み込まざるを得ない、という好例ですね。(47:29)*38

(80)私はブルーの屋根のところの劇伴が大好きなんですよ。栗原さんの曲は、楽しげなものもいいですが、せつない曲がたまりません。(47:52)

(81)「やさしさのない職場だぜ……」(48:57)

(82)「子供がいるとそれはそれで」は原作どおり。こういうユーモラスな場面、いいですよね。(49:41)

(83)原作の動物病院がアニメでは出せないので、ネズミたちがピアスを見つけるくだりを指輪に変更して、ブルーの場面に入れました。ピアスを指輪に変更した理由は、丸いこと、尻尾に通せること、いろいろあります。動物病院は登場させたかったですねえ。残念。(51:25)

(84)ジョン・フォード! でも真似することにも失敗している!(52:01)*39

(85)公園のFパートは、高低差、3の均衡、人工的な自然、という画面構成。少し欲張りすぎたかもしれません。「3の均衡」は、1・2・4のときにバランスが崩れ、何かが起きる、たとえば3人の親子が座るベンチ下にネズミのお父さんが入ると、蹴り出されてしまう、など。うーん、ややこしいですね。(52:35)

(86)タータが川の指差して「ほら」というカットの次に、180度切り返して川を映すカットになります。撮影監督の枝光さんから「この間に、子供たちのアップを挟んだ方が自然につながる」と指摘されました。そのとおりだと思ったのですが、ラッシュチェック中だったので、時すでに遅し、であります。(53:08)*40

(87)監督をやっていると、みなさん大人の対応をするもので、これはこれでありがたいのですが、だんだんと不安がつのり、孤独を感じることがあります。そんなときに枝光さんの建設的な指摘・批判がとてもうれしかった。色指定の横井さんからも、建設的な指摘・批判をいただきました。(53:27)*41

(88)建設的でない、罵倒のような批評にたいしても私が「くだばれ評論家」と思わないのは、そういう事情があり、またそういう性格だからかもしれません。むしろ「ちゃんと見てくれて、どうもありがとう」と感謝の気持ちを伝えたいくらいです。(53:42)

(89)スズメの雛の役は、ゆきじさんですよ。前にも書きましたが http://tinyurl.com/l7z227 いっしょにお仕事ができてうれしかったです。声優になるしかない、というぐらい個性的な声、演技、すばらしいです。(54:16)

(90)公園はかなりの部分の原画が一居一平さんです。うまいし早いし、助かりました。ありがたや。(55:43)*42

(91)スズメ母を演じた藤原さんはCG映画『シュレック』で声優経験があることは知っていたのですが、ご覧のとおり(お聞きのとおり)、すばらしいですね。勇ましい演技がちょっとだけヅカっぽくて(?)、キャラクターにも合っていました。(56:35)

(92)原田さんも、尻に敷かれてるスズメのお父さん役にばっちりでしたね。ニュースにもなったように、銃刀法違反でいろいろありまして、こちらもいろいろあったのですが、いろいろのすえに、放映で原田さんのお声を聴くことができて本当に安心しました。私から言えることはこれで限界です。(57:04)

(93)しかし展開が早い……。まったくもって、コメンタリに向かない作品です。(58:17)

(94)ネズミが三匹そろったところで、ヒナが飛んできて助かる、というのも「3の均衡」です。ご都合主義っぽい展開には、こういうやんわりした画面上の伏線をはる、というスタイルは細田守さんから学びました。(59:26)

(95)駅やバスのGパートから、クレジットにはないですがA.I.という作画スタジオに原画を担当していただきました。(61:13)

(96)駅は、吉祥寺と阿佐ヶ谷をミックスした架空の場所です。「阿佐祥寺」でしょうか。(62:02)

(97)公園、駅あたりの美術はムクオスタジオさんです。大変なところを担当していただき、助かりました。ありがたや。(63:08)

(98)バスの中は、五日市街道営業所の方にお願いして、写真を撮らせてもらいました。レイアウトは、椅子が並んでいる構図など、写真をトレスしているものが多いです。(64:29)

(99)山寺さんの長台詞、すてきやわー。(65:01)

(100)バスの天井に反射する川の光、現実的にはありえませんし、ネズミたちの場所から見えるわけがないですね。もちろん、おかまいなし、ですけど。(66:20)

(101)バスの運転手の声は、松本和也さんですよ。英語でしゃべらナイトが終わっちゃって残念でした。松本さんはふだんからキャラが変わらず、アフレコ後はプロの声優にまじって演じるのは申し訳ない、「もう二度と来ません!」と言って、笑いをとってました。(68:40)

(102)三匹がいる場所は、フリスビーの下なんですけど、わかりづらいですね……。(69:14)

(103)原作はタータが主人公っぽい活躍をしますが、やっぱり、アニメはチッチの活躍が目立ちますね。もうひとつタータの逸話を入れたかったんですが、プロット整理の都合で泣く泣く切ってしまいました。原作を読んだ方、これから読む方には、ちがった印象になるので、結果的によかったのかもしれません。(69:53)

(104)三匹が雪の上に「川の字」になって語らう場面、アフレコのときに泣きそうになりましたよ。いやあ、プロの声優さんはすごい。(70:51)

(105)最後の場面は雪の中で死んだ三匹の夢じゃないかという感想をちらほら見ました。視聴者の私は、いい解釈だなぁと思いつつ、反対の意見です。この作品は、夢、幻、見まちがいのカットがなく、フラッシュバックもなく、時間の流れる方向が一定です。最後だけそのルールを破って「夢」にはしないだろうと。(71:10)

(106)しかし最後の解釈は、監督の私の意見はちょっとちがいます。三匹はここで何らかの形で死を通過する必要がある、と考えていました。雪=白=母に包まれて死を経ないうちは、新しい家、家族をつくれないんじゃないかと。肉体的・精神的な「死」を描くつもりでした。(71:30)

(107)「雪に包まれて三匹は死んだが、仲間の助けで蘇生した」と解釈すれば、視聴者の私と監督の私のちがいが矛盾なくすっきり収まりますかね。もちろん、これは公的な解釈ではないですよ。視聴者の方はこんな解釈を気にせずに、自由に見るべきだと思いますので。(71:49)*43

(108)長い長いPANで季節が巡るカット、すごい背景だったんで、持ってかえって額に飾ろうと思ったんですが「要返却!!」と書いてありましたw。(73:01)*44

(109)中国語の感想でも「近親相姦なんて信じられる?!」なんてことが書いてありましたがw、チッチが弟であることは劇中で4回ほど語られるので、近親相姦ではありません。タータとチッチの妻は、ちらりと登場します。見分けづらいですが、何度か見ればわかるんじゃないかと。(73:11)*45

(110)ラストHパートは、スズメのFパートや、バスのGパートより先に絵コンテを上げています。まだ尺には余裕があったのですが、実にあっさり終わらせてますね。視聴者の私は、もう少しじっくり見たいなぁという気もしました。(73:21)

(111)遊佐未森さんの曲、内容にもばっちり合っていて、うれしかった!(74:18)

(112)番組、終わりました! いやー早いもんです。(放送終了)

(113)『川の光』監督の私、視聴者の私、脚本家の私、コンテマンの私、演出処理の私、公人としての私、私人としての私。それぞれ同じ一人の私ですが、少しずつちがっていて、ひじょうにこんがらがった私がtwitterでコメンタリを書きました。お粗末さまでした。

(114)私の『川の光』コメンタリー発言ですが、まとめてアップしたり、改変して遊んだり、いろいろ自由にやっちゃってください。

(115)あらためて自分のコメンタリを読むと、挙げ忘れたスタッフが多くて、びくびくしますね。時間制限があったので他意はありません、すいませんがご了承ください。書きたかったこと、書けないこと、いろいろありますが、コメンタリはとても楽しかったです。

平川監督、コメンタリどうもありがとうございました。とても楽しかったです!

*1:原恵一監督の『河童のクゥの夏休み』メイキングは、ボイジャーから出ている『クゥの映画缶』をご覧下さい。(宣伝)

*2:これは「題材が」ということなんでしょうか。コンテや演出は原さんっぽくはない気もするんですが……

*3:でも必要なことですよね。脚本そのまま映像にしたものと、映像の流れを考えて書き直したものは、やはり印象が異なりますし。脚本家によって差があるかもしれませんが、私は「書き換えてほしい」派です。ディレクションの一貫性のために。それがどんなに自信のあるホンだったとしても。

*4:シナリオ打ち合わせの問題に関しては、雪室俊一さんの『テクマクマヤコン―ぼくのアニメ青春録』を参照。

*5:原作はこちら(『川の光』)。

*6:ドン・シーゲルは『【初回限定生産】ダーティハリー アルティメット・コレクターズ・エディション(7枚組) [DVD]』が有名ですがB級的には『マンハッタン無宿【ユニバーサル・セレクション1500円キャンペーン/2009年第4弾:初回生産限定】 [DVD]』が好き。リュイスはジョゼフ・H・ルイスのことかな。とすると『拳銃魔 [DVD]』。

*7:なるほど、「テレビ」なんですね。個人的に見終わった後、個々のシーンの印象は残ったんですがアニメーションとして印象に残ったところがなくて、すごくもやもやしていたんですが、これが「TVフィーチャー」だったからなのか! 日常洋画劇場!

*8:男鹿和雄さんのこと。『男鹿和雄画集 (ジブリTHE ARTシリーズ)』は本当におすすめ。稲葉さん・日野さんはそれぞれ美術担当の稲葉邦彦さんと日野香諸里さん。

*9:出崎監督のこの作品を意識せざるを得ないからこそ……ですよね。(『テレビシリーズ DVD-BOX 「ガンバの冒険」』)。『ガンバの冒険 劇場版コンプリート・コレクション [DVD]』は一作目が出崎統監督のもの。

*10:作画wiki参照。個人的にはやはり『アイシールド21』の印象があります。

*11:ご本人のホームページはこちら。『みなみけ』一期や『苺ましまろOVAなどでお仕事をなされています。

*12:往年の吹き替え版がソフト販売されるなんて鼻血ものです。『「空飛ぶモンティ・パイソン」“日本語吹替復活”DVD BOX』、本当に演技がイイ!

*13:たとえば果たして『シャングリ・ラ』で環境問題は扱えているのかどうか、は気になる問題です。作品の背景にはできるけど、テーマとしては? あるいはNHKSAVE THE FUTUREのなかの作品としては、少しずれてはいなかったか? 等々。

*14:現場で子どもたちの反応を見ていると、ここでは「悪者」への印象よりも「音」へのレスポンスが強かったように思います。

*15:劇場版アニメでお名前をよく見るような気が致します。古いところでは『ロミオと青い空』や『七つの海のティコ』でしょうか。

*16:ジブリ映画でよくお名前を拝見致します。あるいは『小公女セーラ』。

*17:ハワード・ホークスのことですが、さすがに『His Girl Friday』を字幕付けるのはものすごく大変そう……やるなら吹き替えでやってみたいです。

*18:高野さんもやはりジブリ映画でよくお名前を。知識が足りず他の作品を上げられなくて申し訳ないです。

*19:フルネームはそれぞれ山内昇寿郎さん、小野隆哉さん、寺田千久紗さん。山崎さんはノンクレジットなので、お名前がわかりませんでした。

*20:脱線ですが、ソシュールによって「書かれなかったもの」の誤読から近代言語学が出発しているっていうのが、それ以後の展開をすでに予言していますよね。まさに「カセット効果」!

*21:このブログにも「グレン かっこいい」で検索してお越しになる方が結構いらっしゃいます。

*22:アングルがおかしくてもいいと思うのですが、一瞬グレンにカメラを振った際、ちょっと視聴者は混乱しちゃいますよね。見ている人の意識としてはカメラの手前じゃなくやっぱり奥にいるので。あれがなければ、鏡に映るグレンは問題なく進んだような気もします。

*23:これ、翻訳者としてはものすごく大事なことだと思いました。

*24:作画wiki参照。

*25:図書館には給水器があると思い出せる、この一点で読書家(図書館の頻繁な利用者)だということがわかります(笑)。ふと思ったのですが、もしかすると「水に似た音」も音響演出的にもっと生かせたかもしれませんね。

*26:リアリティの方面でつっこみをしてしまうと、この場面では棚の上の埃が舞って、それが月の光に照らされてきらきらとしていなきゃならないような。でも演出的には……どうだろう、幻想的な感じに……いや、使えないか。

*27:初見では気が付かなかったんですが、ここで雫を挟んでグレンと一家の位置関係がひっくり返りますよね。最初、一家は過去の方向である右を向いて後ろ髪を引かれつつ、そのあと未来へ進むため左を向く。本当は移動もなく入れ替わっちゃうのはおかしいんだけど勢いで納得しちゃう場面です。

*28:沓名健一さんのこと。これが作画スレでもあった「水がときどき上手い」の謎の正体?(うろおぼえ)。

*29:分数の割に原画さんのお名前が少ないのはそういうことだったんですね。

*30:でも、暗がりの(吹かされていない)煙草の光ってこれで合ってますか? 強めの光を出してるのにはちょっと違和感があります。煙草以外の光り物の選択肢もあったのではないでしょうか?

*31:経験的な話ですが、創っていると 映像<脚本<絵コンテ の順で時間の感覚が長くなってゆっくりになっていく感じがあります。絵コンテを描いているとあまりに感覚時間がスローになって前後を忘れちゃうんですよね。理想としては、頭のなかで実際の時間へシュミレートしつつ書ければ(描ければ)いいんですが、めちゃくちゃ難しいです。

*32:作画wiki参照

*33:言うまでもなく、『攻殻機動隊』の草薙少佐。

*34:HD時代の課題ですね……。

*35:見たかったですぅぅぅ!

*36:田中さんは、コメディ役とシリアス役のときと声(のオーラ?)を明瞭に使い分けてらっしゃるので、別の作品のイメージを寄せ付けないのが上手ですよね。演技は上手いのに視聴者に別の作品のイメージが引きずらせてしまって、せっかくのものを台無しにしてしまう方もいらっしゃいますが、田中さんはそういうのがまったくない、その力量というのにはもう舌を巻きます。

*37:みかんかわいいよみかん

*38:作監作品に『PiPi とべないホタル』など。

*39:別れのシーン、ですね(たぶん)。

*40:枝光弘明さんのこと。確かに切り返しには見えないですね……ううーむ。

*41:横井正人さんのこと。

*42:ご本人のホームページはこちら

*43:ちなみに終わったあと「お父さんはどうなったの?」と言ってるお子さんがいました。う〜ん、確かに声がないからわかりづらいか。ということはつまり、あまり色では区別して見ていなかった、ということなのかも。

*44:見ている方としては、ここにPAN以外の何らかの動きか効果がないと、ちょっと不安になります……。

*45:声だけでは男の子か女の子かわかりづらい、ということなんでしょうね、きっと。わからせる必要があるかどうかは演出の意図次第ですが。ふたりの奥さんは、巣に入る前、ふたり揃って話しかけるネズミさんだと思われます。