Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

ピーターラビットはじめました。

先日、福井健策先生の骨董通り法律事務所メールマガジンのお知らせから、このような記事を拝読しました。

少なくとも日本ではピーターラビット著作権は切れている。著作者が創作コストを回収するために与えられた独占管理の期間(1902年発行の最初の絵本について言えば約102年間)は過ぎて、作品は万人に開かれた文化の土壌に帰った。だから誰でも自由に絵本を出版したり、原画を使える。それが著作権法の最も基本的なルールである。(……)
しかし(……)、時に延命できてしまうのである。一見「知財権のような」もっともらしい権利主張に出くわすと、特にその者が欧米の権利者で複雑そうな警告表示をしていたり、強い後ろ盾があったりすると、とりあえず権利があるかのように許可を申請し、高額な使用料すら払う。ライセンス契約にはしばしば、こちらを将来まで拘束するような条件が記載されている。ライセンスを受けたという前例が既成事実化して、自分たち自身をしばる不思議な業界秩序ができあがる。

http://www.kottolaw.com/column_091105_1.html

よろしい、ならば翻訳だ!*1 ……というわけで、「ピーターラビットはじめました」。本日より、不定期にてベアトリクス・ポッターの絵本翻訳を開始致します。いつもと同じように、いくつかたまったら青空文庫の方にクリエイティブコモンズで登録しますので、よろしくお願い致します。

まず第一回はもちろん"The Tale of Peter Rabbit"、拙訳では「あなうさピーターのはなし」。(ちなみに次回は「いちびりナトキンのはなし」を予定。)

ちなみに福井先生の記事中、『星の王子さま』の話題も出てきていますが、一部訳本にはこのピーターラビットの件と同様の表記が見られるものがあります。"LE PETIT PRINCE"および「星の王子さま」は商標である、と。ピーターラビットの場合は各本の題名まで商標扱いされていて、かなりややこしいことを考えると、まだましなのですが。

そういう事情もありまして、今回の翻訳でも「ピータラビット」という名称・通用している邦題のどちらも使用しません(※重要)。

ただひとつの懸念は、ベアトリクス・ポッターが存命中、かなり意図的にキャラクタービジネスを始めた人物で、その考えから行くと、しばらく権利的に厳しかったのは割と納得できるということにあります。本人がこういう自由な使用をどう思ったかは、正直ちょっとわかりません。(それゆえ、当該の管理会社が今後も「商標」としてこれらを使用していくことについて、基本的に異議はありません。むしろ私もキャラクターグッズを楽しみとして買っている消費者のひとりですので、良質の商品が出てくるのは喜ばしいことなのです。)

それでも福井先生も触れておられる2007年の大阪高裁判決で、この著作権表記の無効が確認されているので、翻訳は可能であると。である限り、翻訳研究者としてはやはり国内に数種の翻訳があった方が好ましい状況であると思いますし(というかネット上にはすでに他の和訳もあるようですし)、商標によって翻訳が限られるというのも望ましくないですし、なおかつそもそもが絵本大好き人間ですので、今回は個人的信念や感情にしたがって、あくまでも「お話」に焦点をあてて翻訳をするということに致しました。

それでは、この下より翻訳が始まります。

*1:誤解する人はいないと思いますが、別に福井先生から直接何かを言われたとかではなく、記事の情報を見て私が勝手にやっているだけです。翻訳者というものはある事実を知ったとき、勝手な使命感に燃えることで歴史的に有名な職業なのです。そのために死んだ人も多いわけですが。