Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

「初音ミク」個人制作3Dアニメ特集(旧稿リサイクル)

このエントリは、2008年9月3日に脱稿されたものをそのまま掲載しています。大元の企画がなくなってしまったため、日の目を見ませんでしたが、近々全面改稿するにあたって、旧稿を脱稿時のまま(事実誤認や必要以上のあおり等も含めて)公開しておきます。

 2007年8月31日に発売されたDTMソフト「初音ミク」。YAMAHAの開発したVOCALOIDという合成音声システムを使用し、実際の歌手の代わりにヴァーチャルシンガーとして歌を唄うというコンピュータソフトである。先行して発売されていた商品と差別化するために、ライブラリに声優の藤田咲、商品イラストにKEIを起用して、ヴァーチャルアイドルのイメージを付加したところ、それがユーザの創造力や想像力を刺激することになり、その年後半のネットシーンを席巻することになった。

 とりわけニコニコ動画をはじめとする動画サイトでの盛り上がりがすさまじく、音楽の制作だけでなく、二次創作的なイラストが多く書かれることになった。そして、その影響は個人制作アニメにも波及する。現代の音楽には、PV(プロモーションヴィデオ)と呼ばれる映像作品がつきものである。楽曲の世界観を支えるために作られたり、あるいは楽曲そのものに触発されて新たに映像が作られたりする。初音ミクが「アイドル」であるならば、その偶像を支えるためのPVがあってもおかしくはないし、誰かがそれを作りたいと思うのもごく自然なことだ。TVやヴィデオで見るような、初音ミクの映像を「作品」として創りたい……。

 アニメにとって初音ミクが僥倖であったのは、そのPV作品がほぼすべて個人制作であり、なおかつ3Dアニメーション作品が多いことだ。コンピュータ技術の発展によって、個人によるアニメ制作が簡単になり十数年経つが、2002年の『ほしのこえ』(監督:新海誠)以後、個人によるアニメ制作が盛り上がったことは少ない。もちろんアマチュアアーティストはいたし、そこそこ注目されたものもあるが、多くの人間が見て騒ぎ合うといったレベルには達しなかった。

 だが初音ミクは違った。多くのクリエイタが「初音ミク」のために多くのアニメ作品を創り、また多くの人が「初音ミク」を通して多くの作品を見る。また「初音ミク」を通して公表された楽曲と相互に刺激を与え合い、さらには「初音ミク」による3Dアニメ制作を支援するフリーソフトまで現れたことで、よりいっそう作品の創造が活性化する。そしてそれらの映像は、すでに何百万回と視聴されているのだ。日本の3Dアニメに訪れた初めての幸せだとも言えよう。

 2Dアニメが主流の日本に置いて、長らく3Dアニメは「気持ち悪い」ものとされてきた。動きやディテールが不自然なもの、あるいは自然すぎるもの。どちらにも生理的な嫌悪を示し、遠ざけてきた。いわゆる「不気味の谷」の問題だ。この問題について、国外ではディズニーが巧みに処理している。リアルな人間ではなく「かわいいもの」を動かすことによって中和・相殺しているのだ。しかしそれはあくまで「カートゥン」の範囲内であって、日本の「アニメ」にそぐわなった。2D風のアニメ絵モデリングを無理に3Dカートゥンの文法で動かしても、リミテッドアニメーションに慣れた感覚からは、到底受容可能なものではない。

 しかし初音ミクは、そのような壁をもやすやすと超えていく。ニコニコ動画のコメントという批評にさらされながら、自由な創造の場で、クリエイタたちは「萌え」とリミテッドアニメーションの文法から次々と突破口を見いだす。ここに紹介するのは、日本の3Dアニメが生まれる瞬間に立ち会っている幸福な作品たちであり、「初音ミク」という奇跡の木に実った果実たちである。

1.「恋スルVOC@LOID (OSTER with 初音ミク3D その7)」
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作者:Gibson/楽曲:OSTER_project
 Gibson氏は初音ミク発売当初から実験的に3Dアニメを作り続けていた先駆的クリエイタである。「その7」とあるのは、それまで試行錯誤を繰り返してきた結果の数字であり、「その1」はソフト発売から半月も経たずして始められている。その最終到達点として、初音ミクを代表する楽曲と言ってもいい「恋スルVOC@LOID」のPVを楽曲制作者のコラボレーションという形で発表した。
 その特徴は感性的なモデリングによる清潔感と、そのふわふわとした豊かな表情と演技である。動きとしては、おそらくロボットとして初音ミクが存在したときに予想される重さよりも、そして人間の重さよりも、ずいぶん軽い。しかしそれがかえってヴァーチャルなものとしての儚さを表現しており、楽曲の内容や曲調、映像の演出とも相まって、人間的なものとは別のリアリティを引き出している。

2.「3DみくみくPV♪」
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作者:雫組/楽曲:ika
 これも公開が10月と、初期の初音ミク3Dアニメの勢いを牽引した1作。同時期に公開された「ひっそりと”みっくみく”を踊らせてみた」(制作:kaki)と同様、初音ミクの人気に爆発的加速をつけた楽曲「みくみくにしてあげる♪」をベースに、音楽に合う映像を施した作品。サビの「みっくみく」で正拳突きのような振り付けをするのは、元ネタのアスキーアートへのオマージュを込めた同楽曲3Dアニメに共通のもの。
 今作はリミテッドに見られる「見栄」やカメラワークを駆使して存分に見せた佳作だが、過剰なコメディ要素や記号は新房昭之の監督作品同様、好き嫌いがはっきり分かれるところであろう(白田先生ヤマハの記号で泣いた)。しかしその作り込みが、他のクリエイタに与えた影響は大きく、ここから初音ミクPVは格段にレベルアップをしていく。

3.「フルスクラッチ GO MY WAY!!
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作者:FarSeer/楽曲:(非オリジナル)
 パソコンの描画能力を測るベンチマークソフトとして、作者本人によって開発されたエンジンによるデモ3Dアニメ。もともと能力を測るためにあるので、その動きようは半端ではなく、これでもかというほど踊り倒す。これも10月頃に制作が開始され、リンク先は開発終了後にアップされた1秒60フレームというとんでもない画(普通のアニメは8フレームくらいで、TVは30フレーム)。つまり、われわれが画面を通してみる人間の映像よりもずっと動いているし、おそらく見る人のパソコンの限界を超えてしまっている場合さえある(あなたのパソコンで映像がカクカクしていたら、そうだ)。若干フレーム数の少ない旧ヴァージョンはこちら

4.「【初音ミク】3DPV「私の時間」」
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作者:ソクテン/楽曲:くちばし
 別名「ぽよぽよ動画」とも呼ばれるほど、かわいらしさが秀逸なモデリングのPV。「不気味の谷」などどこ吹く風のこの3Dデータの設計は、実は動画作者ではなく、ISAO氏という人物によるもので、彼がある事情により別動画で配布していたもの。これもまた、ひとつの創造がもうひとつの創造へとつながっていった例だ。
 普通なら、3Dアニメの「息の演技」こそ不気味の谷の原因になりやすいのだが、これを部分的に(わからないように)使うことによって、初音ミクがまるで生きているかのような錯覚を起こさせることに成功している。3Dアニメにとって、カット割りとメリハリがいかに重要かを認識させられる1作である。

5.「【初音ミクハジメテノオト 【3D PV】」
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作者:puni-ko/楽曲:malo
 コメントにも「光の魔法」といった言葉が踊るように、この作品の肝は3Dアニメにおける光の使い方。実のところ、この作品はモデリングも動きもさほど細かいわけではなく、光なしの単調な演出で見れば、3D「カートゥン」と同じような違和感があったはずである。その種のものが単調な絵コンテと演出で死んできた一方で、この作者は何をどのようにすれば映像として見せられるかというポイントをよく理解している。光を当て、絶対に「止め絵」を作らず、常に変化のある画面にすることによって、弱点の部分の露出を徹底的に回避する。それは同時に、これまでの3Dアニメたろうとしたものが、何の努力を怠ってきたかがあらわにするとも言えるだろう。

6.「【初音ミク】勝手にゲストライブ「Packaged」Full」
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作者:dough/楽曲:kz(livetune)
 ライブ型の音楽番組のカット割りと演出、そして歌手の動きを3Dアニメで再現した労作。これはもともと初音ミクの二次創作イラストとして「ライブ会場で歌う初音ミク」というものがあり、そこからその画像を様々な歌と合わせたものが続出し、10月の頭にはこの「Packaged」という曲に口まで合わせた動画が完成していた(元のイラストのBGMとしても使われていた)。そしてその後、別の人物によって11月からライブ映像の動画制作が始まり、見事にイラストのイメージそのままの映像へと昇華された。曲からイラスト、口パクの簡易動画、そして3Dアニメとスムーズにバトンがタッチされ、創造の輪をつないでいった。
 そしてこの楽曲を制作したkz氏は、同曲により今夏のCDメジャーデビューを決めた。ユーザからの拍手と、ネットで無料で公開されていてもなお「CDを買う」との心強い声援。この流れもまた、見事。

7.「【初音ミク】melody...3D PV ver1.50」
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作者:ussy/楽曲:mikuru396
 これもモデリングは作者ではなく、キオ氏。若干、首のあたりのラインや肌の質感に癖があるが、「逆にそれがアンドロイドっぽくて良い」という意見もあり、特定のファンが多い。おそらくそのモデリングの特性が表れているのか、「キオ式」と呼ばれるモデルデータは機械のモチーフやトランス系の音楽、透明感のある楽曲とよく合う。唯一の公式モデルデータというものがない初音ミクは、モデリングする人物の数だけ可能性があり、それがキャラクタとしての幅をも広げている。二次創作へ想像力を解放することにより、さまざまな身体に乗り移ることが可能になった彼女は、まさに「ヴァーチャル」なアイドルであり、お仕着せの身体しか与えられないこれまでの似非ヴァーチャルアイドルとは一線を画している。
 このPVで縁のできた3名は、このあと一緒にサークル活動を行うことになる。

8.「ARToolKit初音ミク(その6):LIVE」
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作者:cs7008/楽曲:初音ミク−公式デモ音楽3
 ARToolKitというフリーのプログラムを使い、カメラで撮影した映像にリアルタイムで合成した3Dアニメ。ついに現実世界にまで現れたヴァーチャルアイドルは、これまで物語で描かれるだけだったものを、いとも簡単に乗り越える。「日本始まったな」「21世紀が始まりました」などなど、素直な驚きと喜びが飛び交う今動画は、AR(Augmented Reality)の名前の通り、それまで知らなかった世界や技術へ向かって、われわれの現実を拡張する。

9.「【初音ミク】ほうき星 ユンナ 完成版【VOCALOID3DPV】」
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作者:tripshots/楽曲:(非オリジナル)
 こちらは非オリジナル曲へのPVだが、この映像は初音ミクのアイドルではない「ドール」としての一面を強く感じさせる作品だ。確かに動画サイト上ではアイドルとして奉られる初音ミクだが、その本体はDTMソフトだ。ユーザの指示に従って歌う人形である。そこにはある種、主従関係のようなものが仮想され、『ローゼンメイデン』を意識してかしないでか、ユーザは「マスター」とも呼ばれる。ただしそれは現実世界の使役関係というよりは、ここで描かれるような内田春菊の『南くんの恋人』や、『アウターゾーン』の「マジックドール」におけるパートナーシップを彷彿とさせる関係なのかもしれない。初音ミクは歌姫と恋人と人形を自由に行き来する存在でもあると言えよう。

10.「【3DCG】くるっと・おどって・初音ミクねんどろいど】」
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作者:gragra/楽曲:(非オリジナル)
 ヴァレンタイン・デイに彗星のごとく現れ、その当日ネタ動画に走ろうとするニコニコ動画における一部の流れを圧倒的な力で粉砕し、1日で15万回の再生をたたき出した奇跡の動画。すでに販売が予告され、予約も開始されていた初音ミクのディフォルメフィギュア「ねんどろいど 初音ミク」の造型を3Dで完璧にトレースし、ケロロ軍曹のEDを参考にした自作手描き2Dアニメ「くるっと・おどって・初音ミク」の踊りをアレンジしつつ、細部にまでこだわった繊細な動きでかわいらしく演じきった秀作。制作者本人は意図しなかったが、この動画のかわいらしさにやられた視聴者の多くが、動画下に表示される「ニコニコ市場」から「ねんどろいど 初音ミク」を予約することになる。そしてその結果、商品を販売する企業から、この動画が販売促進と宣言に多大な効果を与えた(「感動した!」)として、匿名の制作者個人を探した上、お礼をされるまでに至った。
 この動画が示唆するのは、日本の3Dアニメは「かわいいフィギュアがかわいく動けば」何とかなるのではないかということだ。元動画の作者コメント欄に、さまざまな借用のお礼が記されているように、これもまた数多くの二次創作の交差点に現れた二次創作であり、創造の自由な場における幸福な結婚と言えよう。

11.「【2.5D 初音ミク】スマイリー×スマイリーPV +α」
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作者:Moch/楽曲:GonGoss
 『らき☆すた』の柊つかさ等を意識した大きな目と丸い顔の絶妙なバランスに加え、「萌え」のフェチズムを追求したカット割りとポーズの精緻な演出が、視聴者の心をわしづかみにした1作。ブログでの制作コメンタリからも、意識的に批評的に3Dアニメを作っていることがうかがえる。これが3月1日の公開で、個人制作による初音ミク3DアニメPVは、ひとつのゴールに達する。
 この動画のタイトルにもあるように、「2.5D」が日本の3Dアニメが目指すべき着地点である。3Dでありながら、決して現実ではなく2Dのかわいらしさを維持しようとする指向であるかもしれない。あるいは、2Dの世界が現実へも食い込んでいこうとする指向なのかもしれない。そして「不気味の谷」を破壊できるものが「萌え」であったという、この動画の突きつける厳然たる哲学的事実に、われわれは驚倒するほかない。初音ミクの動画群は、多くの人々の試行錯誤をもって、そのことを実地に証明したのだ。
 そして「ニコニコ動画」の思想と、楽曲における「平和」へのメッセージ、「萌え」という「人の心を武装解除」させる力が、クリエイタの創造によって有機的に結晶する。この作品を初音ミク3Dアニメのマスターピースとして定義するのにためらいはない。

12.「3Dミクを躍らせるツールを自作してみた(説明前編)」
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作者:樋口優
 しかし、これらの動画制作は、少なくとも3Dアニメに関しての知識がなければ、あるいは特殊な専用のソフトを組み合わせなければ不可能なものであった。ところが、この状況をさらに一段階先へ進めるソフトが前の動画と前後して登場する。それが樋口優氏制作によるフリーソフトMikuMikuDance」だ。
 解説動画を見てもらえればわかる通り、初音ミクを動かして3Dアニメを作るためのソフトであり、必要なものはすべて最初から用意されていて、非常に簡単な動作だけでアニメ制作が可能となる。このソフトの登場で、これまでの素晴らしいアニメの登場に刺激されていた潜在的クリエイタの創作意欲が、一挙に爆発する。初音ミクというソフトの登場も、歌付きの楽曲を手軽に作りたいと思っていた潜在的クリエイタたちに創造のスイッチを入れたが、またここでかぶさるように、もう一段階の発破が行われたのだ。

13.「【MikuMikuDance】EX-GIRLを振り付けてみた【なんとなしに】」
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作者:pentax/楽曲:くちばし
 初音ミクの楽曲を見てPVを見て「私もPVを作りたい」と感じる潜在層はかなりいたはずだ。できる人は何もないところから自力でやってもできるというのは事実だが、とっかかりが永遠に得られなければ、潜在的な実力があっても創造は生まれないまま終わる。そのきっかけとしての敷居を一挙に下げたのが、この「MikuMikuDance」という「フリー」のソフトだ。すべての創造物が著作権によって保護されることも大事だが、あえて「公共物」にすることによって社会全体が幸せになるという事態が、確かに存在する。この制作者の意図は、ツールを公共物にしてたくさんの創造が生まれた方が、創造物を享受する側(自分)として幸せだから、というところにある。これまでわからなかった課題が、自由の場が設けられることによって、一気に解決するということもある。それら自由から得られるものを大事にするというのが、「初音ミク」から見える人間の哲学だ。そしてその結果、このような動画を「なんとなしに(!)」作ることができてしまうだから、素直に感動するほかない。さらに使い方次第で、いかようにも素晴らしいアニメが作れるというのが、次の2作品だ。

14.「【MikuMikuDance】baby's star jam音頭(高画質)【DE DE MOUSE】」
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作者:G2P/楽曲:(非オリジナル)
 「初音ミク」は、物語ではなく現実の世界ではじめて成功したヴァーチャルアイドルといっても過言ではないだろう。もちろん、これまでそのような名前で呼ばれた試みはいくつも存在した。だが1996年に登場した伊達杏子を筆頭に失敗することが多かった。なぜ失敗したのかを考えたとき、それを単純に技術の未熟さなどに帰することはできない。また物語の希薄さが原因なのではない(それは初音ミクも同様だ)。では何か。それは、彼女たちはそもそも登場の時点で、ヴァーチャルであるが「アイドル」ではなかったからだ。
 「アイドル」は常に、その信者との共犯関係を元に構築され、維持される。そしてその関係を結ぶためには、そのアイドルへ信者たちが積極的にかかわることが必須である。自分たちがそのアイドルを育てた、自分たちがそのアイドルの人気を支えている、などといった類のことだ。伊達杏子の場合、すでに始まりから完成されたモデリングがあり、完璧な動きがあり、優れた歌声があった。そこのどこに「信者」の介入する余地があろう。アイドルは本来未熟であるからこそ、その自らの歴史を始めることができる。

15.「【ミクと】大学で 寝・逃・げでリセット! PV風【一緒に】」
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作者:暴徒P/楽曲:(非オリジナル)
 「初音ミク」というソフトは何もしなければ、ただ下手な歌を唄うだけのソフトだ。持ち歌は何も持っていないし、PVを作ってくれるクリエイタもいなければ、振り付けを踊れるだけの身体能力(どころか身体そのもの)も持っていない。信者が介入することによってしか始まらないアイドルとは、純粋にアイドルそのものでしかない。「初音ミク」は、ただ「アイドルですよ」という記号が貼られただけの、声帯を持つ一枚の絵にしか過ぎなかった。だが、その「記号が貼られただけ」という純粋な形であるからこそ、彼女は純粋なアイドルとして生まれることができ、ここまでのムーヴメントを築き上げることができた。
 初音ミクが一種の「宗教」だと言われれば、おそらくそうであろう。しかしそれは一神教ではなく、おそらく多神教の神のひとりだ。われわれが祭ごとに、さまざまな神をご神体として担ぎ上げ盛り上がるように、2007年後半から2008年前半にかけてのネットにおける祭の神が、初音ミクだった。そしてその神は、信仰のお礼にわれわれに豊穣な収穫物を与えてくれた、というわけだ。神への信仰というのは、われわれが努力を積み重ねるための便宜であることは、歴史や研究を見るまでもなく言うまでもない。その意味で、本来別のジャンルであるアニメにまで実りを与えた初音ミクは、きわめて優秀な神であったと言えるだろう。

16.「【第1回MMD杯本選】超時空VOCALOIDキラッ☆
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作者:哭蛹/楽曲:(非オリジナル)
 そして初音ミクの発売より1年が経過した。前述の通り、ミクのために歌を作っていた人々のなかからついにメジャーデビューするクリエイタも現れ(しかも「初音ミク」を歌手として)、くだんの楽曲はオリコンアルバムランキング週間5位という快挙を成し遂げる。さらに「初音ミク」本人は、SFの権威ある賞・第39回星雲賞の自由部門までも受賞してしまい、なおかつ動画サイト・作品発表サイトでのクリエイタによる楽曲制作の勢いは、1年経った今でもとどまることを知らない。
 上の動画は、上記のMikuMikuDance(MMD)というソフトを使って行われた自主的なコンテストの優勝作品である。クリエイタそれぞれが、「初音ミク」という場に集い、自らの意志でお互いに協力し合いそして競い合う。さらに今、場(あるいは神)として機能するソフトは、彼女だけでない。先発・後続してリリースされたVOC@LOIDのいずれもが、創造の場としてクリエイタたちを刺激し続けている。ほんのわずかな絵と設定しかないVOC@LOIDというアイドルたちには、「想像の余地」しかない。何を想像し創造するかはクリエイタの自由である。そしてどの神を信仰するかも自由である。
 繰り返すが、創造における豊穣の神の場合、一神教でなく多神教である。何か特異な「神」のごとき存在の「キャラ」が、人々の想像力と創造力に火をつける。キャラは単なるデータベース(あるいはその組み合わせ)ではないし、単に動物的に消費されるだけのものではない。そのような静的なものではありえない。そこは、多数の人々がかかわる、もっと有機的でダイナミックな空間であり、キャラはその空間のご神体なのである。
 「初音ミク」は、そういった「90年代後半から00年代」における創造のあり方と力を、如実に見せつけてくれる存在であるとも言えるだろう。

以下は、それ以後に出てきたVOCALOIDの楽曲を源とする3Dアニメ作品で、私が気になったものの一覧です。

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メモ:王心凌とか台湾ポップス好きの私大歓喜

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メモ:みっく・でかるちゃー☆

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メモ:くねくねうねうね。

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メモ:言わずと知れたあの楽器の大元。

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メモ:今年のクリスマスはこれを視聴しながら。

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メモ:曲から生まれたひとつの世界。

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メモ:私はぽよぽよが好きだ!

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メモ:朝日新聞でも取り上げられましたねー。

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メモ:アノマロさんのモデル使用のPVがもっと見たい。

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メモ:機動歌姫ヴォーカリオン。

それ以後のMMD杯やProject DIVAおよびDance×Mixer以降の3D作品の氾濫で、個人的にほとんど把握できなくなり、現在に至ります。というか、殿堂入りがSEGA公式以外ない状況? うう〜む。