Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

ミュージカル版不思議の国のアリス うた部分(草稿)

 〈うた:妖精たちのコーラス〉
  お眠りなさい、くるくるくる
  小鳥と蜂の子守歌
  こんな森でも大丈夫
  この木の下は、妖精たちのたまり場だから
  お眠りなさい、アリスちゃん
  小川と山の魔法歌
  寝てるあなたを守るから
  起きたらそこは、不思議の国の夢のなかだよ

 〈うた:アリスのソロ〉
  びっくりだ わあにさん
  しっぽがね ぴいかぴか
  ナイルがわ ざあぶざぶ
  うろこにね びっしゃびしゃ
 
  キバだして にいんやり
  ツメひろげ じゃきーん
  おいでませ さかなちゃん
  にこにこ……がぶりっ!

 〈うた:アリスのソロ〉
 「もう年なんだ、ウィリアムじいさん。」
  若者言った、「頭は白髪、
  なのにいつでも逆立ちばかり――
  自分のことを考えてみろ。」
 
  息子に向かってじいさん言った、
 「若い頃には不安もあった、
  だけど元々バカだと気づき、
  それからあとは打ち込むのみよ。」
 
 「もう年なんだ、わかってくれよ、
  どっから見ても太りすぎだよ、
  なのに戸口でバク転なんて――
  いったい何を考えてんだ。」
 
  白髪振り分け、じいさん言った、
 「若い頃にはしなやかじゃった、
  この塗り薬のおかげでな――
  一箱一シル――どうじゃ二箱?」
 
 「もう年なんだ、歯茎も弱い、
  やっと脂身食えるくらいで、
  鵞鳥の骨をがりがり砕く――
  こりゃいったいどうなってんだ?」
 
 「若い頃には屁理屈ばかり、
  ことあるごとに女房と言い合い、
  おかげでアゴも鍛えられてな、
  死ぬまでずっとそのままじゃろな。」
 
 「もう年なんだ、普通だったら
  目の方だってしょぼしょぼのはず、
  それでも鼻にウナギを立てて、
  じいさんどうしてこれほど器用?」
 
 「三度も言えば、わかるじゃろう!
  いいかいお前、いい気になるなよ、
  こんな話はもうたくさんじゃ、
  去《い》ねば階段から蹴り落とす!」

 〈うた:ソロが公爵夫人、コーラスがコックと赤子〉
 (公)小さな子どもはどやしつけろ
    くしゃみをしたらぶったたけ
    そいつはただのいやがらせ
    わかってやってる、このクソガキァ
 (コ)わう! わう! わう!
 
 (公)わが家のガキにはしかりつける
    くしゃみをしたらぶったたく
    ほうっておけばそのうちに
    こしょうだって楽しみやがる
 (コ)わう! わう! わう!

 〈うた:アリスとチェシア猫の掛け合い〉
 (ア)チェシャにゃん、どうもありがとう
    教えてくれてありがとう
    こんな貴重なアドバイス
    そこらの猫にはできないわ
    うちのダイナもこんなふうに
    おしゃべりできたらいいのにな
 (両)出てくる答えはいつでもぴったり
    あなた(おいら)は不思議なチェシア猫
 
 (猫)とてもやさしいアリスにゃん
    おほめの言葉かたじけにゃい
    ぜひともそちらのダイナにゃん
    お会いしたいものですにゃ
    そしたら何でもいっぱい教えて
    立派な猫にしてあげる
 (両)やることなすことほんとにびっくり
    あいつ(おいら)は不思議なチェシア猫

 〈うた:アリス・帽子屋・弥生ウサギの掛け合い〉
 (ウ)あそこの帽子屋、頭がおかしい
 (全)おっしゃる通り、その通り
 (ウ)間違いねえよな?
 (全)その通り!
 (ウ)おかしくなった
    わけは知らんが
    おかしいことはとにかくわかる
 (全)おっしゃる通りでその通り
 
 (帽)弥生にウサギはおかしくなりおる
 (全)おっしゃる通り、その通り
 (帽)わけはわからん
 (全)その通り!
 (帽)秋はいいが
    春風あたると
    たちまちやつらはおかしくなりおる
 (全)おっしゃる通りでその通り
 
 (ア)弥生のあいつはほんとにひどい
 (全)おっしゃる通り、その通り
 (ア)主食は石けん
 (全)その通り!
 (ア)帽子屋も変だし
    意味もないのに
    おべっかなんて言いたくなくてよ
 (全)おっしゃる通りでその通り

 〈うた:キング・クイーン・アリスの掛け合い〉
 (両)いぶかるあやつは処刑人
    身体もないのに首など切れぬ
 (ア)いぶかるあやつは処刑人
    身体もないのに首など切れぬ
 (K)いやいや昔は処刑人
    頭があれば切れると言った
 (ア)いやいや昔は処刑人
    頭があれば切れると言った
 (Q)たわけた話はもうやめじゃ
    できねばお前が処刑じゃぞ
 (ア)たわけた話はもうやめじゃ
    できねばお前が処刑じゃぞ

 〈うた:フーミとグリフォンのコーラス〉
  すてきなすうぷ こくまろみどり
  おなべのなかで ほかほか!
  こんなごちそう みんなくらくら!
  よるのすうぷ すてきなすうぷ!
  よるのすうぷ すてきなすうぷ!
  すうううてきな すううううぷ!
  すうううてきな すううううぷ!
  よおおおるの すううううぷ!
  すてきな すてきな すううぷ!
 
  すてきなすうぷ おさかないらず
  おにくもおかずも ばいばい!
  こんなにやすくて みんなほくほく!
  これできまり すてきなすうぷ!
  これできまり すてきなすうぷ!
  すうううてきな すううううぷ!
  すうううてきな すううううぷ!
  よおおおるの すううううぷ!
  すてきな すうううてきな すううぷ!

 〈うた:基本はグリフォンのソロ、フーミが二行コーラスで入る〉
 「もちっと早く歩けない?」とカタツムリにマダラが言った
 「サメがあとを追ってきて、ぼくの尾ひれをつつくんだけど。
  ほおらあんなに頑張って、エビもカメも泳いでるんだ、
  みんな海辺で待ってるよ――行って一緒に踊らないかい?」
 
  行こうよ、どうかな、行こうよ、どうかな、行こうよ踊りにさ
  行こうよ、どうかな、行こうよ、どうかな、どうかな踊るのは
 
 「だってすごく楽しいよ、ほんとに君はわからないの、
  エビと一緒につかまれて、海の方へと投げられるんだ。」
  けれど相手は横目見て、「遠すぎるよ」と返事してから、
  誘ってくれて嬉しいが、踊りに行けぬと突き放した。
 
  いやいや、無理だよ、いやいや、無理だよ、いやいや踊りはさ
  いやいや、無理だよ、いやいや、無理だよ、無理だよ踊るのは
 
  そこでタラはさらに言う、「遠くたっていいじゃないか、
  向こうにだって行けばほら、やっぱり陸地はあるんだから、
  遠くはなるよイギリスは、でもフランスは近くなるんだ、
  やる気出そうカタツムリ、行って踊りに参加しようぜ。」
 
  行こうよ、どうかな、行こうよ、どうかな、行こうよ踊りにさ
  行こうよ、どうかな、行こうよ、どうかな、どうかな踊るのは

 〈うた:アリスのソロ〉
  こいつはエビの声、聞こえてくるぞ
 「おいおい焼きすぎだ、砂糖をまぶせ。」
  アヒルのまぶたみたく、鼻を使って、
  身支度ととのえて、内股歩き。
 
  砂浜干上がると、はしゃぎだしては、
  サメをバカにして、まくし立てそう、
  ところが満ち潮で、サメが泳ぐと、
  その声ふるえだし、小さくなった。

 〈うた:アリス・キング・クイーン・その他大勢の掛け合い〉
 (ア)みなみな無罪を申し渡す
    ただしジャックはこれ以後
     つられてタルトを盗まないこと
 (K)おやおや無罪になったのか
    これではお前ももはや
     ジャックの首をちょん切れぬ
 (Q)なんだと無罪のはずはない
    アリスやバカを申すな
     タルトが勝手に逃げたとでも?
 (ア)そうです、そういうことなのです
    それでもいらいらするのなら
     自分の首を切ればどう?
 (全)これにてハートのクイーンも
    とうとう追いつめられたのさ
    ぼくらの友のお裁きで
    結果、ジャックは無罪放免
    みんなで無罪を申し渡す
    ただしジャックはこれ以後
     つられてタルトを盗まないこと
    無罪になってようやくわかった
    今まで起こった変なこと
     ぼくらのアリスが不思議の国に来たわけが

 〈うた:チェスのコマのコーラス、うたのあとダンス〉
  さあさあただちに戦闘配置
  赤白のキングに、おそばにクイン
  ビショップわきから援護攻撃
  ナイトの動きは縦横無尽
  ポーンは兵隊、両翼固め
  ルークは構えてにらみをきかす

 〈ジャバウォッキのうた:キングのソロ〉
  ぐつのころ、ずるるトウヴが
  うぬるであゆってはすった。
  あわるなのがボロゴウヴ、
  じめなレイスがののしたてる。
 
 「せがれよ、ジャバウォックにようじんじゃ、
  そのアゴでかみつき、そのツメでつかみくる、
  ジュブジュブどりにもようじんじゃ、そして、
  あうなよ、いきりくるったククッタクリには!」
 
  かれはコトハのつるぎをてにして、
  ひさしくまんとうのかたきをさがし――
  タムタムのきのもとでひとやすみ、
  しばしおもいにふけりたちつくす。
 
  そしてらあらしおもいでいると、
  ジャバウォックがめをもやし、
  ふぐれたもりからひゅうるとあらわれ、
  いきなりのことにひっぐり!
 
  えい、や! えい、や! たぁ、たぁあ、
  コトハのつるぎがかたなりほうだい!
  てきをたいじし、くびをかかえて、
  うきっぷしながら、かえりゆく。
 
 「ジャバウォックをたおしたか?
  よくぞやった、わがひかりのせがれ!
  きょうはめでたい! あはれ、あっぱれ!
  うれしくて、おもわずふっかわらい。
 
  ぐつのころ、ずるるトウヴが
  うぬるであゆってはすった。
  あわるなのがボロゴウヴ、
  じめなレイスがののしたてる。

 〈うた:ダンとデーのデュエット〉
  チードルダンとチードルデー
  もう勝負をするしかない
  だってチードルダンがチードルデーに
  新品ガラガラ壊されたから
 
  そこへ来たのがおばけカラス
  まっくろけで飛んでくる
  それでどっちともがおびえきって
  けんかのことも忘れちまった

 〈おゆうぎうた:アリス・ダン・デーで一緒に〉
  くわの木ぐるぐるぐーるぐる
  くわの木だ
  くわの木よ
  くわの木ぐるぐるぐーるぐる
  さむくてこごえる朝のこと

 〈うた:セイウチと大工〉
  お日さまが 海に照る
  ぎらぎらと 輝いて
  頑張って 大波を
  おだやかに きらやかに
  でも不思議 というのも
  真夜中の ことだから
 
  お月さま ぎろぎろと
  光っては いらいらと
  お日さまが うっとうしい
  まだ朝じゃ ないんだぞ
  ぶしつけな 野郎だわ
  楽しみの 邪魔なんて
 
  海はもう ひたひたで
  砂浜は からからで
  雲さえも 見えなくて
  空はただ 晴れている
  鳥もまた 見えなくて
  空に飛ぶ ものはない
 
  セイウチと 大工さん
  すぐそばを 歩いてる
  海沿いは 砂だけで
  さめざめと 涙する
 「すっきりと なくなれば
  どんなにか いいだろう」
 
 「七人の 娘ッ子で
  半年も 掃除すりゃ
  どうなるか」とセイウチだ
 「すっきりと するかしら」
 「どうだかな」と大工さん
  ただつらく ひとしずく
 
 「カキさんや みなこちら」
  セイウチが さそい出す
 「ご一緒に 散歩でも
  浜辺にて おしゃべりを
  お相手は 四つまで
  手の数が 足りるぶん」
 
  にらんでる カキじじい
  一言も 返事なし
  片方の 目をつむり
  ゆっくりと 首をふる
  つまるとこ カキどこを
  絶対に 離れぬと
 
  それなのに いそいそと
  カキたちは やってくる
  身だしなみ ととのえた
  四ひきの むすめたち
  くつだって ぴかぴかだ
  カキに足 ないのにね
 
  そのあとに また四つ
  さらにまた 四つ来る
  次々と ぞろぞろと
  これはもう 止まらない
  とびはねて 波こえて
  浜辺まで ずるずると
 
  セイウチと 大工さん
  それなりに 散歩して
  岩場にて 一休み
  ちょうどいい 低さだな
  かわいらしい カキたちは
  列になり 待っている
 
  セイウチの 言うことにゃ
 「そろそろだ おしゃべりを
  くつや船 ふうロウと
  キャベツとか 王さまね
  なぜ海は わきあがる
  豚に羽根 あるのかな」
 
  カキたちの 言うことにゃ
 「待ってくれ その前に
  つかれてる やつもいる
  それにみな ぽっちゃりで!」
 「わかったぜ」と大工さん
  みんなして うれしがる
 
  セイウチの 言うことにゃ
 「こうなると パンがいる
  あとお酢に コショウもね
  そうすれば ばっちりだ
  さあてさて カキちゃんや
  ここいらで お食事だ」
 
 「やめてくれ」とカキたちが
  青ざめて さけびだす
 「やさしさの そのあとに
  わるいこと するんだな!」
  セイウチの 言うことにゃ
 「いい夜だ すてきだろう?
 
  来てくれて うれしいよ
  君たちも すてきだよ」
  大工さん そっけなく
 「もう一まい 切ってくれ
  お前さん 耳よけりゃ
  二度言わず すむのにな!」
 
  セイウチの 言うことにゃ
 「すまねえな ここらまで
  急がせて 来てもらい
  そのあげく ウソなんて!」
  大工さん そっけなく
 「おいバター あつくぬれ!」
 
  セイウチの 言うことにゃ
 「かわいそう 泣けてきた」
  しくしくと 涙して
  でかいのを えらび出す
  ハンカチを 取り出して
  目の前を おおいかくす
 
  大工さん カキたちに
 「走るのも いいもんだろ?
  帰りには 歩くかね?」
  でもそれに 返事なし
  当たり前 というのも
  カキぜんぶ 食べちゃった

 〈うた:アリスのソロ〉
  ハンプティダンプティは塀の上だ
  ハンプティダンプティ転がり落ちた
  キングの馬と家来が総出でも
  やっぱりハンプティダンプティは元に戻らず

 〈うた:キングの家来たちのコーラス〉
  ハンプティダンプティ 落っこちちゃった
  ハンプティダンプティ ずんぐりむっくり
  ハンプティダンプティ 王冠割れた
  ハンプティダンプティ ずんぐりむっくり
  それでもキングは約束守る
  やっぱりキングは約束守る
  約束守って総出で来たが
  ハンプティダンプティ 全部粉々
  馬も家来も急いで来たが
  どうにも元には戻らない
  ハンプティダンプティ ずんぐりむっくり

 〈うた:一同のコーラス〉
  ライオンとユニコーンの王冠争奪戦
  ライオンがユニコーンを町中でめったうち
  そこへおでまし 白パンやるやつ 黒パンやるやつ
  プラムケーキに太鼓を叩くと 二匹は町から出て行った

 〈うた:ソロとコーラス〉
 (ソ)鏡の国に 語るアリスの
    手には王笏《おうじゃく》 頭に王冠
    住人全員 食事に招待
    赤白クインに アリスと一緒
 (コ)急いでグラスに なみなみついで
    ボタンともみがら 机にまいて
    猫《にゃん》入りコーヒー 鼠《ちゅう》入り紅茶
    アリスを歓迎 三〇の三倍
 
 (ソ)鏡の国に アリスは告げる
    会うはほまれぞ しゃべるは愛ぞ
    食事をするは かなり別格
    赤白クインに アリスと一緒
 (コ)グラスにつぐのは 蜜とインク
    美味しい飲み物 なんでもござれ
    砂入りリンゴ酒 綿入りワイン
    アリスを歓迎 九〇の九倍

 〈うた:一同のコーラス〉
  アリスの乾杯
  ちよにやちよに
  いちばんすごい女王様
  そそげやそそげ
  コップにカップ
  われらが女王 クイーンアリスに乾杯だ

 〈うた:妖精のコーラス〉
  お起きなさい、アリス、もう旅はおしまい
  不思議の国のまぼろしは、たちまち消える
  妖精の声が目覚まし――夢はここまで
  お起きなさい、アリス、いつもの世界だよ