Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

ゴマブックス「ケータイ名作文学」シリーズ

ケータイ名作文学・人間失格 (ケータイ名作文学)

ケータイ名作文学・人間失格 (ケータイ名作文学)

こちらは、青空文庫のテキストを使った、横書き体裁の文学シリーズです。私もすでに横書き世代に片足をつっこんでいるせいか、印刷のフォントも色も工夫されていて、とても読みやすかったです。

本の冒頭に本文中のフレーズが抜き出してあって、横にページ数が打ってあるので、そこから本文に行けるのも、ちょっと感動してしまいました。

こういうものが出てくると、すぐ「縦書きじゃないとダメだ!」とか「文学をこんな軽くしてはいけない!」みたいな言説が出てくるかと思うのですが、翻訳研究者として、あるいは当時の子どもとして、70年代〜80年代の「完訳至上主義」と「子どもに対する読書推進運動」のひどい結果を実感として理解しているだけに、読むのなら横書きでも何でもいいじゃないか、と思う方が強いです。

「正しいものを正しい形で!」というのは理想主義ですが(実はそんな「正しさ」なんてどこにも存在しない空想の産物なのですが)、現実を見れば、子どもたちは古典を読んでないんですよね。そして、いくら正しさを主張しても、読まないものは読まない。どうせ読まないならどんな形であるにせよ、読んだ方がいい。だったら、むしろその人たちが読むように、対象としている人たちにどうやって届けるか、という「回路」の問題を考えなくちゃいけない。

何かと誰かがつながっていないことを発見して、それをいかにつなぐか、という方法を考えて実行するのが、そもそも翻訳の起源であり基礎です。そして、そのつなぐ方法というのは、たったひとつに限定するのではなく、たくさんあった方がいい、というか、たくさんなければいけないのです。

ですから、自分が読むか読まないかを別にしても、横書きの文学シリーズを強く歓迎したいと思います。

(PS: 個人的には、もっと若いときにこの体裁で読みたかった!と強く思います。)