Baker Street Bakery > パン焼き日誌

ある翻訳家・翻訳研究者のサービス残業的な場末のブログ。更新放置気味。実際にパンは焼いてません、あしからず。

地デジにまつわる別の問題

それよりも、私は地デジについてはこっちの問題の方が気になります。

2011年7月25日の朝を迎えたとき、多くの視覚障害者は、テレビを見たりFMラジオでテレビを聞くことが一斉にできなくなり、テレビが生活から消えてしまう、が現実のものとなってきた

社会福祉法人 京都ライトハウス - 視覚障害者総合福祉施設

厚生労働省の調査では、現在、視覚障害者の約3分の2がテレビ放送から情報を得ているというふうに言われております。以前、目の見えない人もアニメを「聞く」という話をしましたが、ニュースやワイドショー、お昼から夕方にかけての情報番組等々も、やはり(それ以上に)よく聞かれていると思います。

「目が見えないのだからラジオでしょ?」みたいに思われる方もあるかもしれませんが、芸能や今の流行、あるいは美味しい飲食店の情報は圧倒的にTVの方が多いですし、そういうことが気になるのは目の見える見えないに関係がありません。自分の知りたいことがたくさんあるから、それを得ようとする、というのは当たり前のことです。

なのでTVを聞くのですが、もちろん画面を見るわけではないので、TVを付けっぱなしにするか、もしくはTVの聞けるFMラジオ(昔はよくありましたね!)を使って聞きます。特に後者が結構多いと思います。そもそも画面が要らないので、テレビの音声情報だけ取り出せればいいわけですから、FMラジオが最も簡便な端末たりうるわけです。

この「ラジオでTVを聞く」というのが重要なのですが、地デジになればそのFMラジオでのTV聴取は全滅します

これはアナログTVに変換器をつければいいっていう問題じゃないですよね。これまでFMラジオで聞いていた人が、別に画面も要らないのにバカでかくて薄い液晶テレビを購入しなくちゃいけなくて、しかも買ったら買ったでやたらボタンの多いリモコン(しかも突起がわかりにくい!)を操作しなくちゃいけなくなります。このハードルの上がり方は想像以上に半端ないです。

元々TVをある程度使える視覚障害者が地デジに移行するのは、普通の人の地デジ移行とそう大差ないかなと個人的には思うのですが、FMラジオ→地デジTVはさすがにきついですよ。何というかちょっとメリットがなさすぎます。人を集めて「地デジへの移行方法」の説明会をして、点字パンフまで用意して……だけでは不十分なんですよね。

たとえば地デジTVにすれば、チャンネル名と番組名を音声で教えてくれて、なおかつ天気予報や番組表も音声読み上げに対応してくれれば今まで以上に簡便になるかもしれないのですが、諸外国を見ても、まだテレビそのものに搭載しているものはほとんどありません。NPO団体がテレビに取り付ける別箱みたいなのを作って対応させている国はあるようですが、お話を聞いたところ個人ベースではとんでもない労力がかかるそうで。

一方でNHK技研は「視覚障害者向けデジタル放送受信提示システム」というものを開発していまして、4月になってようやくその説明会が始まったとか。資料が手に入っていないので何とも言えませんが、この動きには超期待というところです。

(本当は支援装置ではなく、音声のみの地デジ受信機があった方が……とは思うのですが。もしくはワンセグ受信機のバリアフリー化ですね。)

人を「説得」するときというのは、まずはその「得」を「説」かないといけないのですから、単に「見れなくなります」「画が綺麗になります」ではなくて、本気で地デジに移行させたいなら、(電波資源的な理由ではなく)生活に密着した得を説いてほしいな、と個人的には思ったりしております。